一時に、軽い食事をしに、一階に降りていった。坊は、もう、寝られないと言うので、パジャマを脱いでしまった。それから、部屋で読書するらしかった。私は、シャワーから出ると、テテマロの散歩にいった。そのあいだに、フランクのソナタを、カセットに録音しておいた。帰ってきて、もう片面に、ドビュッシーの四重奏。それを渡しに、部屋に上ってゆくと、安楽椅子に掛けて、カラマーゾフの文庫本を手にしている。先週から読んでいるのだ言う。それで、もう、法廷の所まで行っている。再読だとは言うのだけれど。聖書を知らずに読むのと、聖書を知ってから読むのとでは、全然違うと。以前、私も読んだ米川正夫訳だった。あまり肩の張る物を読んだりして、又熱を出すわよとからかったら、もう、熱は引きましたと、鼻声で言った。段々、鼻が詰るらしい。まだ、入浴は無理。明日も休だ。さっき宣告してきた。そのかわり、好きな時間まで起きていなさいと。夕食も、九時と遅かった。昼食が遅かったし、食欲も出ない。食べる気になるまで、ことこと、チキン・スープを煮込んだ。家中、チキン・スープの匂で充満している。
もう、何度、フランクを聴返すのだろう。最初に感動した曲というので、特に好きなのだ。今は十時五十分。少なくとも三度目だ。ドビュッシーも、何度か聞えていたし、夕食を挟んだから、勘定ができなくなってしまった。そういえば、坊の臭が、最近、全然しない。風呂にも入らないのに。今朝、こっそり出掛けようとしていた。工場に行く心算だったのだ。坊が支度する物音で目が覚めた。まさかと飛起きて、部屋に行ってみた。五分遅れていたら、出掛けていただろう。私は、思切叱付けた。そのあとで、彼女を、自分のベッドに連れてゆき、服装などや、今日までのことで、色々と言聞かせたのだけれど、彼女の部屋に入ったとき、何も感じなかった。一昨日のメンソレータムが、それとは分らない程度に残っているけれども、あとは、坊の肌の、甘い、良い匂だけ。ゴールデン・ウィークのあいだは、朝、部屋に入ってゆくと臭ったものだった。
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