「坊は、そういう人がいないの?おっぱいを見られても良いような。」「いません。」「でも、お風呂屋さんでは見られるんでしょう?」「お風呂屋さんは、みんな裸です。」「そうじゃなくて、番台のおじさんに見られるんでしょう?」「番台なんかありません。そんな所に行きません。」「さすが、お姉ちゃんの妹だ。今まで、そういうお風呂屋さんに行ったことがない?」「ありません。絶対に厭です。番台なんかあったら帰ってきます。」「そう!女の子はそうでなくちゃ駄目よ!日本は、アメリカとかヨーロッパに比べたら、まだまだ野蛮な風習が残っているから、そういうお風呂屋さんが、沢山あるけれど、そんな所に行く女は野蛮人ね!フランスの小説に、そんなお風呂屋さんが出てくるかしら、女が着替えるところを、番台に坐って、じーっと見おろしている。坊はアンナ・カレーニナを読んだ?」「読みました、去年。」「じゃ、キティが、ヴロンスキーに裏切られて、お医者さんの診察を受けるところを覚えている?」「よく覚えています。」「お医者さんにだって見せたくないのよ?本当は。番台のおじさんなんかに見られたら、ヴォルガに身投するわよ?キティなら、きっと。」「そうですね!」「でも、坊になら見せても良いかな。お姉ちゃんのおっぱい、見せてあげましょうか。私は、坊のおっぱいを見るの。」「結構です!滋子お姉ちゃんのおっぱいが大きいのは分りました。」「そう!女の人にだって見せちゃ駄目!そんなことをするのは野蛮人よ。でも、坊は、お風呂屋さんなんかに行っている。」「それは仕方がありません。服を着て、お風呂には入れません。」「そうね、でも、タオルか何かで隠して入るんでしょう?」「タオルは使えません。」「じゃ、どうぞ見て下さいって入っていくの?」「そんなことはしません。ちゃんと隠して入ります。混んでいる時間には行かないし。」「坊は偉いな。やっぱり、お姉ちゃんの妹だ。お姉ちゃんの真似をしなさい?レイディーになるのよ。」「レイディーになれますか。」「なれるわよ。もう、半分なっているわ?此処で暮していれば、半年後には、一人前のレイディーよ。坊なら、三箇月、いや二箇月かもしれない。頭は良いし、耳だって良いし、顔が綺麗だし。そのうち、門の前は、坊恋しさに拳銃自殺した男の死体の山よ。街衢死屍累累。今の、分った?」「はい、全部、滋子お姉ちゃんのお陰です。お姉ちゃんの言うとおりにします。」
5/18(水)の記事は続きます。[編者]
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