「馬鹿ね、冗談よ!すねちゃったの?」「すねました。男の人に放ってけぼりの坊ですから、滋子お姉ちゃんと違って。」「じゃ、坊は、今まで、好きな人に見せたことがないの?」「滋子お姉ちゃんは見せるんですか。」「見せるはずがないでしょう!女のお乳は、誰にも見せちゃいけないのよ?どんなことがあっても。それほど大切なものよ!」「でも、滋子お姉ちゃんは好きな人がいるんじゃないんですか。その人には見せないんですか。」「結婚すれば見せるでしょう、誰だって。でも、彼、死んじゃったの。」「死んだんですか。」「そう、去年。」「好きな人が死んだんですか。」「結婚するはずだった。でも、死んじゃったから、お姉ちゃんは、誰にも、おっぱいを見せる必要がないの。」「なぜ死んだんですか。」「病気よ。」「結婚するはずだったのにですか。」「そう。」「愛していたんですか。」「無論よ。とても愛していたわ。今も愛している。」「信じられません、そんな。死んだなんて。全然、そんなふうに見えません。」「今も愛しているからよ。私は、彼の物だって分っているから。だから、ほかの男の人とは、できるだけ口を利かないし、おっぱいなんか、絶対に見られない。坊も、そういう人にしか見せちゃ駄目よ!女の命よ、おっぱいは。」坊は引込まれて、私の顔のあたりまで這上ってきて、頭を擡げて聞入った。酷く深刻そうな顔が、とりわけ可愛いので、また、軽く、唇に接吻した。
5/18(水)の記事は続きます。[編者]
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
http://db.tt/wiixYXDN
目次はこちら
http://db.tt/fsQ61YjO