今日は、何処へも行かないのだと言含めて、すぐに、パジャマに着替直すように命じた。今、暖い物を持ってきてあげるからと。ちょっと、きつく言過ぎたと思った。堪らなく可愛くなって、唇に、軽くキスした。私達のファースト・キッスということだ。念のために、変な誤解をしちゃ駄目よ、私には好きな人がいるんだからと言って、キッチンに下りていった。スキムミルクに、ココアとマーマレード・ジャムを入れたのを、二人分持って、坊の部屋に上っていったときには、もう、ベッドに入ってしまって、ラジオを、枕のそばに置いて聞いていた。お姉ちゃんの部屋で飲もう、ラジオも持っていらっしゃいと言って、おはようさんを聞きながら、坊と私とで、ベッドに、二人並んで入って飲んだ。私も、以前は、毎朝、えのさんの声を聞いていたので懐しかったけれど、今朝は、懐しい声も上の空だった。物事は、なるべきようになったので、結局は良かったのだけれども。
坊が、ベッドに、半身を入れて、横に座ったときは、途端に憂鬱になった。信じられない思だった。左に座った彼女の胸が見えている。ブラジャーを着けていないのではない。着けている。ただ、ベティ・クレアズの物ではない、何処ぞで、自分が見付けてきたのを着けている。一枚は、雨の日に、私が預ってい る。返す気はない。何とか言って、又処分すれば良い。当然、坊も、ブラジャーの五六枚は持っているだろう。でも、なぜ、私のを外してしまったのだろう。寝汗をかいたからかもしれない。メンソレータムが臭うのだろうか。何にもせよ、今着けているのを着けて、工場に行く心算だった。それとも、これから、又寝るから、草臥れても良い安物に着けかえたのか。それとも、この方が緩くて寝易いからか。すると、この子は、普段から、寝るときにもブラジャーをするのだろう。メンソレータムを塗ってやったときは、着けた工合が調べられて嬉しかった反面、窮屈そうで、少しおかしくもあった。田舎の女の子はそうするのかと思った。私は、着けていないものと考えて、メンソレータムを塗りにいった。バスルームのドアを開けなかったのは、やはり間違だったと思われた。今度こそ、痣を見る心算で、部屋に入っていった。
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