関内から、タクシーで帰ってくる車内で、改めて、すべてが、なるようになっていると感じた。鎌倉の帰に、横浜駅で降りたときは、何も考えないうちは、ベティ・クレアズに、足が向いていたのに、なまじ、立止って考えたものだから、下着も買わず、工場で役に立ったか立たないかも分らないブラウスを購入して終ってしまった。初に、心に浮んだとおりに、ベティ・クレアズに行っていれば、心配は、そこですんだはずだのに。一週間も悶抜かなくてすんだのに。最初に考えた口実を使って、このブラジャーを与えていれば、その分だけ、見られる危険を減らすことができたのだ。これなら、たとえ、ぺらぺらのシャツを着て屈んでも、恐らく、見えることはないだろう。そう予測した安全性は、今や、確認済の安全性になった。昨夜、寝息を立てているときに、メンソレータムを塗ってやろと、そっと、パジャマの胸を開けたら、ブラジャーを着けて眠っている。マネキン人形で確めたとおりで、胸に張付いて、膨みを、全部覆隠している。二の指と三の指を、ためしに、カップの下に滑込ませたけれど、隙間がないので、中々持上らない。寝ている子には息苦しく見えるほど、ぴったりくっついている。ちょっとかわいそうな仕打だけれど、私も、もう良い加減に、余計な心配から開放されたくて、胸を開いたままで、体を起させた。薬を塗ってあげるからと。彼女は朦朧として、背を凭せかけて、又前後不覚になった。顔を顰めて、酷く辛そうな表情だけれども、それほど熱が高いのではない。頭を右に傾げて、猫背になった。丁度、グリーン車の中のうたた寝のように。違は、あのときは、頭を、前に垂れていた。でも、猫背のなりかたは同じ。薬を塗りながら、カップの縁に目を凝した。やはり大丈夫。仰向よりは、隙間が、ほんの少し出来る。でも、奥まで見ることは不可能。グリーン車では、乳首が覗いていた。念のために、スタンドを向けて、光が、隙間に忍込むようにして、又調べた。一二センチで行きどまり。これなら安心。思切屈まったら、どうか分らないけれど、熱を出して眠っている子に、そこまでさせるのは気が引ける。今調べているのは、薬を塗るついでだから、理由が立つけれど。でも、多分、この張付きかたなら大丈夫だ。幅広の紐が、肩に、しっかり張付いて、指で動かしても動かない。水着のように吸付くので、簡単に弛むとは思えない。あとは、起上ってきたら、いつか屈むだろうから、そのときに確めれは良い。
5/17(火)の記事は続きます。[編者]
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
http://db.tt/wiixYXDN
目次はこちら
http://db.tt/fsQ61YjO