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己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
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3/27(日)

   今日は、朝から雨です。降りみ降らずみ、寒い一日だった。由加里は来ず。

   昨日は、あれから、彼女を、バス停まで送っていくときに、道道、今日、二人ですることの予定を立てて話しました。彼女は、昼から暇になると言った。 顔は、晴やかになっていたし、時々、笑いもした。わだかまりはありそうにも見えなかった。「じゃ、一時に、石川町の駅でね?」と言って見送りました。

   予定では、一時に、石川町ので待合せる。スーパーで買物をして、うちでボルシチを作る。由加里は、ボルシチを知らなかった。だから、一緒に作ってみようと、話が決ったわけ。

   彼女も、楽しみですと言っていたのに。買物がすんだら、また、エノキテイに寄って、お茶を飲もうとも決めていました。

   朝早く、まだ八時前に、電話をしてきて、急用が出来たので、今日は行かれなくなりましたって。やっぱり、昨日の事が引掛っているのかしら。

   電話が鳴ったときには、まだ寝ていました。ゆうべは遅かったので。

   昨日は、デニーズで読んだソロモンの歌が、全然、頭に入らない気がして、それで、由加里を送ってきたあとで読直したのです。それから、書きものをしました。バインダーを閉じたときには、鶏が鳴いていた。

   起されてからは、もう眠れなかた。暫く、レコードを聴いたりしていると、ふと、教会のことが思われました。日曜日は、この時間に目覚めていることは、最近ないのです。なぜって、土曜日は夜ふかしをして、昼頃まで寝るのが、習慣になっているのよ?

   みんなどうしているかしらね。佐智枝は結婚したかしら。そしたら、今はシカゴね、きっと。あなた達、幸にやっている?英子はどうしたかな。結婚した のかな。ケイも、サンタモニカに帰っちゃったわね。私のあとは、別所さんが、ピアノを受持っているのかしら。相良さんたちは、帰国しているはずよ?ミー ちゃんと、京助君、英語がペラペラね。チー坊、ごめんね?私、こういうことだったの。有川姉妹の顔の病気、良くなったかな。小巻姉妹と、松原君はどうなっ ただろう。松原君、気が弱いから。もん君ほどじゃないけれど。それから、土屋姉妹、佐野内さん、今川兄弟、荒井夫妻。小林先生は、相変らず、「オッケー よ?」なんて言って、みんなを笑わしているのかしら。ね、もん君、ベッキーも、四月からは小学校よ?みんなが、急に恋しくなってきたわ?って、今朝、レ コードを聴きながら、教会のことで、後から後から、色々考えました。

   一時間もすれば、朝の礼拝にあつまってくる。確、大通を隔てた、教会の筋向うに、喫茶店があった。あそこなら、見つかる心配もない。みんなが、教会に入っていくところが見える。そうだ。今から行ってみよう。みんなの顔を、今から行って、こっそり見てこよう。

   って考えて出掛けのだけれど、行ってみると、喫茶店の窓は、意外に小さくて、中から、教会は見えない。席に座ってしまったので、仕方なく、コーヒーを注文したけれど、コーヒーが来る前に、お金だけ払って、外に出た。ほかに、どこか、良い場所を探す心算で。

   歩道を歩出して、間もなく、思懸けなく、藍ちゃんが(あれは、確に藍ちゃんだった。)、傘もささずに、小走に走ってきて、すぐ脇のセブンイレブンに 入っていった。私も、そんなことに用心して、傘で、顔を隠して歩いていた。藍ちゃんは、雨に打たれたくないから、行く先に、注意も払わずに突進してくる。 私から避けてやらなけば、あと少しでぶつかりそうだった。避けるのに、傘を、高く持上げたときに、一瞬、目と目があって、藍ちゃんと分った。藍ちゃんは、 足をとめる暇もなく、「すみません。」と吐捨てて、セブンイレブンに駆込んだけれど。

   私に気付いたかしら。足早に立去る私を、店内から見送るようだった。私は、駅まで、ずんずん歩いて、電車に乗った。

   私は、こそ泥のような真似をした自分が惨めで、馬鹿らしくて、後味が悪くて遣切れなかった。物凄く耳鳴がするので、目を閉じて、何も考えないようにしていた。そしたら、そのまま眠ってしまった。

   はっとして、目を覚した。誰かに、体を、激しくゆさぶられてだった。列車は、車庫に入るからおりてくださいと車内放送をしている。せきたてられて、プラットホームに下りた目に飛込んできたのは、「八王子」の看板だった。

   ずーっと、此処に運ばれるあいだ、気を失ったように眠込んでしまったのね?電車の行先からして逆方向じゃないの。思懸けなく見つかったもので、急な 後めたさに襲われて、我を忘れたのかしら。隠れようとしているわけではないのに。今日、家を出たときの心積では、私は、もう、教会の人間ではないから、み んなに見つかりたくはなかった。見つからないように、気を付ける。けれど、もしも、誰かに行会ったら、笑顔で挨拶しよう。たまたま、近所に用事が出来たよ うに言えば良い。ついでに、みんなの近況を尋ねる。それ位の余裕はある心算でいた。あのときの、心のとがめは、何処から来たのだろう。後めたい事はないのに。


滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で

http://db.tt/YneARvom


目次はこちら

http://db.tt/fsQ61YjO


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