だからといって、見えて良いはずはない。絶対に見えてはいけない。この子は、ただ無邪気なだけなのか。何も知らない。かわいそうに、アレが、何を意味するのかも知らずにいるのだ。まだ子供なのだ。それこそ、ただ、おかしな所に付いている、大きな黒子位に思って。湯屋でブラジャーを外すときの彼女を取巻く目、目、目、奇異の目、戦慄する目、恐怖の目、嘲る目、そういう目の中にいるとも知らずに外す。無理もない。導いてくれる者がいなかった。誰が、何の智慧を与えてくれたろう。今だに未発達な乳房なのに、まして、中学生の彼女は、乳房と言えるものももっていなかった。だから、おかしな所に、大きな黒子が付いているように思って気に病まなかった。少し膨んできたときも、それのもつ意味を悟らせてくれる者がいなかった。親は死んでしまった。親戚には疎んじられた。高校には行けなかった。どんな場合にも、他人に見せるものではないと諭す者がいなかった。だから、強いて隠すこともしない。合わないブラジャーを着けていられる。胸がはだけても平気だ。十八才のフェミニニティーを、初から持たないのだ。これには、かなり有力な根拠が。彼女のにおい。もしも、フェミニニティーに目を開かせてくれる者がいたなら、必ず、臭のことも忠告したに違ないから。
落ちつこう。段々、私は落ちついてきた。汚い何かが拭去られて、心が澄んできた。私が、目を開かせてやる。私が導いてやれば良い。だから、神社で、同居を言って、姉妹の契を交したのだ。あのときは、何もかも、瞬時に悟って、同居が、一番の方法と分った。分ったというより、そういう気がした。それで、「妹になりなさい。」という言葉が出てきた。これで、何もかも、筋が通る。初からそうなるようになっていた。
見ると、由加里は眠っている。頭を垂れて、手は預けたままで。首の回のシャツが、しどけなげに下って開いている。額と額を隣合せて覗込むと、やっぱり、カップが浮上っている。奥に、豆粒位の赤みが見える。
5/13(金)の記事は続きます。[編者]
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