ななめうしろに、ふと、気配を感じたので振向くと、大学生風の男と目が会った。明らかに狼狽した。そして赤面した。私は、きっと、物凄い顔をしたと思う。お金を入れっぱなしにしていると注意してしてくれるのだった。丁度結終った由加里の手を引張上げて、販売機の前に連れていった。由加里も、ただならぬものを感じて、横から、じろじろ、顔を見上げるらしかった。彼女の方を見ないように、路線図を見上げ、目を凝して、料金を調べる振をし、販売機のボタンを押違えないように集中する振をした。
大学生はどうしただろう。その辺に立っていて、見ているのではないか。さっきは、坊の胸元を盗見ていたに違ない。二十秒間か三十秒間、ななめうしろから、ずっと見ていた。ひょっとして、彼の位置からは、アレが見えたのではないか。自分は、細心の注意をして見ていた。見えそうで見えなかった。もしも、少しだけ、視点を変えたとしたら見えただろうか。でも、確に、カップが覆っていた。自分は、それを、一番見易い所から見おろしていた。ななめうしろから見えたはずはない。しかも、自分よりも、背が低かったから、彼の目の高さでは、角度的に覗きにくいはず。それとも、私を見ていたのか。坊の服の中を、変な目付で覗込んでいる私を。両方だろう、きっと。どんなふうに思っているだろう、私を。今も、その辺に立って見ているのではないか。何気なく見回した。居ないのに安堵した。
5/13(金)の記事は続きます。[編者]
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