5/13(金)
そのとき、三時が過ぎていた。予定では、午前中は、北鎌倉を見て、午後は、八幡宮から杉本寺、報国寺を回って、釈迦堂口切通に行く。其処から、沢山歩くのを覚悟で覚園寺、最後に瑞泉寺の計画でいたのだけれど、一日では、とても無理な行程だった。坊が、見るものは、すべて見ようとするものだから、入った寺、入った寺で足止される形になって、考えていたよりも、大幅に、時間を費す。それは、それなりに楽しいことだから、不平を言うのではないけれど。密には、瑞泉寺で締括りたかった。それが正直な気持。それを楽しみにして来たのだから。夕食も、小町通の何処かでする心積だった。そして、そのまま、アパートまで送届ける。でも、予定は変更しなければならない。
石段を下りて、リュックサックを背負うと、タクシーを拾って、鎌倉駅に向った。一旦、横浜に戻る。そして、馬車道で買物をする。由加里の服を買う。ブラジャーも、サイズの合った物を着けさせる。買物は、鎌倉でもできないことはないけれど、慣れない店は落着かないし、そのあとは、家に戻って、お風呂に入れなければならない。お風呂屋さん!あの子は、どんなふうにもてあつかうのだろう!言いようもなく憂鬱になる。
鎌倉駅。私は、切符売場で、切符を買っていた。横で、由加里がしゃがんで、靴紐を結直始めた。販売機に入れたお金のことは忘れて、すぐさま、胸元の見おろせる位置に立った。探す心算で覗くと、定かではないけれど、心なしか、黒っぽい陰が見えるような気がする。神社のときと違って、カップが浮上ってはいない。背負っているリュックサックの肩紐の為に、おさえつけられるのかもしれない。でも、その分だけ、肩紐が、シャツの縁を撓めて、前に絞出すので、胸元はより大きく、ぱっくりと開いている。これでは、ちょっとしたことで見えてしまう。見える瞬間もありはしないかと、靴紐を結ぶあいだ、隙間を注視した。右足から、左足に、体勢を入替えるときは、全神経を集中して見た。どうにか、乳嘴は隠れていたので安心した。
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