「どの位好き?」
「大好きです。」
「お姉ちゃんの妹になりたい?」答はなくて、又々、例の生際とほっぺた。「お姉ちゃんの妹になりたいんなら、そう言わなくちゃ駄目。」
「なります。」
「本当になる?」
「はい。」
「いやいやなるの?」
「いえ。」と言って、ほっぺたが、おびただしく摩擦した。
「なりたいからなるの?」
「はい。」
「じゃ、そう言って頂戴。」
「お姉さんの妹になりたいのでなります。」
「どの位なりたい?お姉ちゃんは、とっても、お姉ちゃんになりたい。」
「とてもなりたいです。」
「とてもなりたいけれど、いやいや、そう言っている。」
「いえ。」と言って見上げた。不満そうな顔をした。
「お姉ちゃんにキスする?」
「いえ、あの。」
「馬鹿ね!ここ、ほっぺたによ。」それでもためらっているので、わざと、音を立てるように、右、左と、頬に接吻した。「じゃ、坊の番。」と言って、右の頬を出した。やがて、びっくりするほど、大きな音のする接吻をした。頬に口付する音ではなく、自分で、自分の唇を、強く吸過ぎた。「いやいやキスするの?」
「少し。」と、顔色を見ながら言う。その顔が、何だか、テテマロが哀願するときの顔に似ていて、おかしくなって、吹出した。それから、生際に、何発も見舞った。「こういうのは慣よ!お姉ちゃんの妹になったら、これから、毎日、キスの雨だから、坊も、早く慣れることよ!それから、お姉さんは厭よ?私、由加里のお姉ちゃんになるの。お姉さんになるんじゃないの。お姉ちゃんて呼んで頂戴、今。」
「お姉ちゃん。」
「そう!言ってみれば何でもないでしょう?もう一度。」
「お姉ちゃん。」
「もう一度。」
「お姉ちゃん。」と言う顔が、初は真赤だったのが、段々涙ぐんできたので、少し厳過ぎる洗礼だったと悟って、又、頭を抱えこんだのまでは良かったけれど、わけもなく、私まで泣出してしまった。一遍泣出したら、どんどん込上げてきて、何分かして、正気付いたときには、由加里の膝に屈込んで、彼女のジーンズを濡していた。健気にも、背中を摩ってくれていた。
長い石段を、手を繋いでおりた。ふたつの青いリュックが、濃く薄く並んでいた。
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
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