表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
62/197

                                      

   私は、心を決めた。顔を、あやめから離して、それでもまだ、乳房は覗かせたままで、「三渓園のあやめよりも、濃い匂です。」と言って微笑んでいる、この子は、私が引取ろう。山手のあの家で、このまま、一緒に暮そう。彼女を見おろしながら、境内の片隅で、そう決めた。急に居たたまらなくなった。腕から引張上げた。ぎゅーっと抱締めた。彼女は、腕をだらりと垂したままに、黙って、鼻を、私の胸に埋めた。丁度、口の高さに、額の生際があるので、口付が、ひとりでに、其処に行く。いつかの、門前のときと同じく、石のように硬直してはいるけれど、違っているのは、今日の硬直が、恐怖ではなく、照から来ていること。どう反応して良いか分らない。だから、腕は、力なく垂下って、体を、まるごと預けた。

   「坊、お姉ちゃんと、一緒に暮そう。もう、アパート探なんかやめちゃいなさい。今使っている部屋を、そのまま、坊の部屋にすれば良いでしょう?山手に来て、お姉ちゃんの妹になろう。」見おろすと、目を、大きく開いて、子供が、大人の思惑を見透す鋭さで、目の中を覗込んでくる。善意で言い、心からかわゆく思っていると確認したようだった。ひとつ頷いてみせたので、「ね、そうしよう。うちに来なさい。お姉ちゃんの妹になるのよ!」と言って、又抱締めたので、やっと、腕を回してきて、頬を、胸に擦付けた。

   「坊は、お姉ちゃんが好き?」口許にある、額の生際が動いて、胸には、頬の摩擦を感じた。「お姉ちゃんが好きなの?」又、生際の上下運動と、頬が、胸に摩擦する感触。「お姉ちゃんが好きなら、そう言って頂戴。お姉ちゃんは、坊が大好き。」

   「好きです。」


5/12(木)の記事は続きます。[編者]


滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で

http://db.tt/wiixYXDN


目次はこちら

http://db.tt/fsQ61YjO

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ