「山の音」も「千羽鶴」も、あの屋根の下で書かれたのかしら。長い石段を登りながら、ふと考えた。
こんな所まで入ってくる観光客はなく、静かな神域に、山を背に、白いあやめが咲いている。七八本ある。木の葉へ落ちる夜露を聞くうちに、ふと、山の音が聞えたり、音がやんだりした山というのも、この山だろうか。由加里が、目の前で中腰になった。顔を、白い花にもっていった。私は、少し離れて、左に立って見ていた。彼女は、今日は、昨日と違って、半袖を着ている。白の半袖で、とても薄着である。大きく開いた胸元は、片方の乳房が見えている。木漏日が、おちょこ一杯分の、右の乳房を明るくした。猫背に屈んだので、カップが乳房から、丁度、ブラジャーが浮上ったように、肌から離れてしまった。私のいる位置にいる者なら、見ようと思わなくても、目に入る。
すぐそばに寄って、真上から見おろすと、左右ともあらわになって、右房よりも、左房の方が、ひとまわり大きい。左乳嘴の外側の付根が、黒子というには大きすぎる、黒い痣になって、まばらな、ほそい毛が生えている。胸の皮膚が真白で、しかも、指先位の大きさしかない乳嘴なので、痣が、なお異様に見える。
5/12(木)の記事は続きます。[編者]
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