4/16(土)
My Raymond
昨日書いていた続です。
ベルが鳴って、出ると、野球帽を被った由加里が立っていました。スーパーの袋を持っていて、チーズとか、ハムとか、ピクルスの小瓶とか、又、わざわ ざ、気を利かせて、買ってきたのです。無駄なお金を使わせて、電話で、はっきり言っておけば良かったと後悔しました。彼女が、とても健気で、抱締めてやり たかった。
ジャンパーと帽子を客間で脱いで、手を洗うと、すぐ、食堂に連れていって、スパゲティーが出来るまで、グレープジュースを飲んでいてもらいました。 わざわざ買ってきてくれたのだからと、ハムも、チーズも、ピクルスもお数にして、お互に向いあって食べました。由加里は、やっぱり、スパゲティーを食慣れないらしくて、フォークの使いかたが変でしたけれど、何も気が付かない振をして、「沢山食べてね」と言って勧めました。考えてみると、此処で、誰かと食事 をするのは、お正月に、パパとママが来て以来。二晩だけ泊っていった。以前に書いたことがあるでしょう?「京都に帰ろう、京都に帰ろう。」と何度も言われて。由加里は、私の、フォークの使いかたを、ちらちら見て、自分も真似しました。でも、左手は、テーブルから下していました。
由加里は、少しだけ、身の上話をしました。山形の庄内という所で生れたとか、先輩のアパートに居候をして、工場で働いているとか。私も、どんな仕事 をしているとか、両親が京都に居るとか、そんな話をしました。でも、どうして此処で暮しているのかなど、肝心なことは言いませんでした。隠す心算はありませんし、嘘もつきませんけれど。でも、由加里も、それを不思議に思っていることは、顔を見れば分ります。食事がすんで、由加里に尋ねたら、コーヒーが良いと言うので、コーヒーを飲みながら、少し、彼女も、初よりは話易そうに見えたので、「由加里ちゃん、これを飲んだら、ゲームしましょうか。」と言いましたら、「はい。あのー・・・。」と言って、顔が赤くなって、何か言いにくそうに、もじもじして、私に対して、上目を使うので、「んん、忙しいんなら良いの。 明日早いんでしょう?また今度にしましょうね。」と言いましたけれど、まだ、様子がおかしいので、「それとも、何か・・・。」と、何を言おうか迷っていると、「あのー、私の話しかた、変でしょうか。」と言います。初、どういう意味か分らなかったので、私も何と答えて良いか迷いましたけれど、段々聞いてみると、訛を気にして言うのでした。私は、そんなことを、何とも思いませんでしたけれど、彼女は、いたく気に病んでいるのです。
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