私は、一緒に立上って、洗面室まで連れてゆきました。ノブを回して半びらきにし、あかりをつけ、彼女の手は、まだ、私の左手の中にありましたけれど、放して、背中を押して、扉の中に入れました。
私は、テーブルを綺麗にして、又、キッチンで、お茶の支度にかかりました。水を流す音と、扉の音が聞えて、彼女が、客間に行く足音がしました。彼女は、やがて、キッチンに入ってきました。又もや野球帽と、軍手と、そして紙袋を提げた姿です。
「あら、どうして?今、お茶の準備が出来るのに。ゆっくりしていって?」
「有難うございます。もう、帰らなければならない時間なんです。」
「そう、残念だわ?・・・ねえ由加里ちゃん、また来てくれる?」
「はい。」
「本当よ?本当に来てくれなくちゃ厭よ?」
「はい、有難うございます。」
「近いうち。約束よ?」
「又お邪魔して良いでしょうか。」
「良いどこじゃないわ?私、本当に待っているのよ?良い?」
「はい。」
「近いうちに、きっとよ?私、待ちぼうけは厭よ?」
「・・・。」
「由加里ちゃん、本当はね、私、あなたにお友達になってもらいたくて、それでお願するのよ?私、友達がいないから、由加里ちゃんと仲良くなりたいの。良い?構わない?」
「本当ですか。」
「嘘を言うもんですか。私、お友達がいないの。とても寂しいの。」
「・・・。」
「由加里ちゃんがなってくれる?お友達になってくれる?」
「はい。」
「本当に?しょっちゅう来てくれる?」
「はい。」
「ありがとう、由加里ちゃん。嬉しいわ?じゃ、楽しみに待っているわね?」
「・・・。」
「今日からお友達ね?」
彼女は赤くなっていました。目は、すぐにも泣出しそうで、とても潤んでいました。薄い上唇が、小さく震えました。微笑をこらえるようでした。
山手から帰るというので、小学校の停留所まで送っていきました。「今度からは、電話をくれれば、バス停まで、迎に出るから、是非そうしてほしい。」 と言いました。念のために、小学校から、家まで、地図に書いて渡しました。次はいつと尋ねました。「又、近いうちにお邪魔します。」と言います。照れて、 目を合わそうとしないのです。
「夕方からなら、私、いつだって暇なんだから、由加里ちゃんの好きなときに来てほしい。もしも、由加里ちゃんさえ構わないなら、明日も待っている。」と言いました。彼女は「はい。」と言います。あれこれ言ううちに、翌日、石川町で待合せようと約束しました。
4/11(月)の記事はまだ続きます。長いので分けて載せます。[編者]
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