「あのう、つまらない物ですけれど・・・どうぞ・・・。」両手に、喜久家の、小さな菓子箱を捧げています、例の、探る目をして。
「しなくて良かったのに、こんなことを。かえって悪かったわね、お金まで使わせちゃって・・・でもとっても嬉しいわ?ありがとう、由加里ちゃん。とっても嬉しいわ!あけてみていい?」
「本当につまらない物ですけれど・・・すみません。」
「そんなことはない!」いつつばかりのお菓子が、隙間なく収って、全部違っているので、この子なりの選びかたをしたのです。箱を提げて、長いこと歩 回ったのに、全然崩れていない。迷子になっても、揺さないよう、慎重に運んで。彼女は、私の顔を、目庇の下から見るらしい。やっぱりかわゆくなって、 「せっかくだから、一緒にいただきましょうね?今、紅茶をいれますから。それとも、コーヒーがいい?」と言いました。
由加里は辞退して、「そろそろ失礼しなければいけないのです。」と言います。勿論、本心ではない。引止めてほしい。滋子という人が、良い人か、悪い 人か、もう分っている。だから、訪ねてきた。でも、心まで許して良い人か。んん、許せる人だ。それも分っている。前の晩の親切に偽はなかった。間違なく、 心を開いても良い人だ。絶対に、そのような人であってほしい。本当は、早く、そのようにしたい。その心算で来たのだから。でも、切掛が。もうちょっと、滋子には普通にしてほしい。前と同じようにしてくれたら、上手に、塀を跳越えてこられそうなのに、今日は、何だか変で、間合が取れない。本人は、別に、何と も思っていない悪戯を、酷く気にして、機嫌を取りたくて、つい、大袈裟に振舞っている。「探る目」は、間合を計っている。なぜ、そっぽばかり向いているか というと、照隠に決っている。まともに、顔を向けたら、また抱付きそうな勢だから、そらしている。抱付かれるのが厭なのではないかもしれないけれど、そのようなことをする人を知らないから、警戒しているのでしょう。「まだいいでしょう?本当に、ゆっくりしていってね、せっかく来てくれたんだから。紅茶がいい?それともコーヒー?喉が乾いたでしょう、沢山歩いたから。そうだ、緑茶の良いのがあるの。待っててね、いま支度をするから。」
ママが、一保堂のお茶を送ってきたので、ちょうど良い機会だから、玉露を飲ませてみようと思いました。玉露を飲んだことがないに違ない。お菓子のあとは、濃茶をたてるのも面白い。彼女が、どんな顔をするか、私も、ちょっと浮立ちました。
4/11(月)の記事はまだ続きます。長いので分けて載せます。[編者]
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