由加里は冷淡でした。でも、私は、かわゆく思いました。きっと、瞬がかわゆくさせるのでしょう。瞬の「快さ」が、横顔の冷淡さから来る「不快さ」を相殺するのでしょう。
彼女は、長いこと、口を噤んでいました。見るとおり、美人ではありません。今のジョシダイセーに多い型でもないし、アイドルでもないし、ゲーノージ ンでもありません。鼻の高い、目のぱっちりした、明るく、チャーミングな顔とは違います。でも、地味な顔は、険がなくて穏やかです。ここはというところの ない、ちょっと見れば、貧相なようで、古風な顔立は、かえって、起伏がゆるやかで、優しくて、淡い、品の良さが感じられます。感じさせる素質はあるでしょう。でも、その素質をいかそうと思ったら、もっと太らなければ駄目です。脂肪をつけて、顔は、円く、血が通った色でなければ。今のようでは、いかにも貧相 です。
帽子の縁の、すぐ下の、右のこめかみに、ふたつ、黒子が見えます。初は、帽子に隠れていたけれど、皮膚から盛上らない、平な、なめらかな黒子です。 ひとつは、ペンの先ほど。ひとつは、くっきりと、マジックマーカーで付けた位の。ふたつは、つかず、離れず、良い工合に並んでいます。白い肌に、鮮かな黒 が印象的です。私は、黙って、瞬を見ていました。閉じて、ひとつ。開いて、ふたーつ。閉じて、みっつ。開いて、よーっつ。周期が、何だか同調したくなる瞬です。ふと、あることを思出したような顔をしました。前かがみになって、ある物を、手さげの中から取出しました。
4/11(月)の記事はまだ続きます。長いので分けて載せます。[編者]
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