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己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
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   彼女は僕にとって完全な女性でした。問題は、僕が彼女にとってそこそこの男であるかです。これらのページの中で間違った印象を与えたかも知れません;一つはっきりさせてください。僕は性的不能者ではありません。彼女との婚約は、彼女と御両親に対する不信行為ではありませんでした。九年生の時、僕は自分の精子細胞を顕微鏡の下に見て、その活発な運動に驚愕した覚えがあります。お父さんは何よりも孫を望んでおられます。僕は彼の期待に応える自信がありました。ただ、僕は滋子との精神的な結び付きを尊びました。僕も人間です。悪い思いはあります。しかし、決して自分がそう云う思いに耽る事を許しませんでした。彼女はそう云う事柄を超越した存在でした。何時までも婚約者同士でいて、結婚の日が来ない事を、僕は秘かに願いました。可能な間、彼女の清らかさを仰いでいたかったのです。もちろん、アンドレ・ジドの妻のようにする計画は毛頭ありません。僕は同性愛者でもありません。それは飽くまでも秘かな、子供っぽい願いです。しかし、彼女を見ていると、彼女のような濁りの無い目をした女性とは、肉の結び付きなど存在しなくても夫婦でいられる気がして来ます。滋子は出来るだけ沢山子供が欲しいと云います。云い方がまるで少女のようで、ひょっとしたらコウノトリが運んで来て呉れるものと信じているのでは無いかとさえ思えます。明らかに、彼女は精神の結び付きを至上とする人です。

   彼女は僕にとって完全な人でした。あまりにもそうで、彼女が女性である事を、僕は殆ど忘れていました。振り返ると、忘れていたと思います。少なくとも彼女が[めす類]femaleである事を。

   今年のまだ梅雨のさなか、ある晴れた日曜日の午後、教会のあとで、僕は彼女にプールで会いました。教会で別れる時に約束した通り彼女の家に行くと、お母さんが、滋子はプールにいて、僕をそこで待っている、と云いました。僕がプール端に到着した時、教会の女の子に泳ぎのレッスンをしてやっていました。彼女は[まり]真理を腕より支えて、バタ足の練習をさせていました。彼女は僕に頷いて真理を向こう端へ引いて行きました。真理の外に久美子と絵美がいました。

   その朝、僕は彼女の半袖姿を初めて目にしたのでした。その同じ日、僅か数時間後、僕は彼女を水着姿で見ていました。僕の驚愕を想像してください。僕にとって、滋子は聖女だったのです。そうして僕は、彼女を水着姿で見ていました。僕だけではありません。皆、彼女を見ていました。彼女は向こう端から僕が立っている端まで、泳いで来ました。彼女は仰向けになって泳ぎました。皆、その乳白色の姿を目で追っていました。近くで、若い男のグループが、彼女のある特定の部位を【すげえな!】と称賛しました。正直に云わせてください。僕はその時まで、それらの部位をそうした関連で考えた事が無かった。一人がもう一人に、彼女に声を掛けてみろと促しました。彼女はこっち端に着く少し手前で泳ぐのを止めて、水中で立ち上がり、僕に両腕を振ってほほえみました。(僕は、水着を着ていませんでした;ただプール端で彼女を見ていただけです。)親愛なる叔父さん、全く正直に云います。僕は少しも得意ではありませんでした。僕は、ただの一分たりとも彼女に水着を着ていて欲しくありませんでした。嫉妬と云う単語の意味が分かりました。彼女は水から出ると、少し赤くなりながら僕の側へ来て、自分の泳法をどう思うかと尋ねました。僕も水着を買って来たらどうか、そして一緒に泳ごうと彼女は提案しました。間違いが無いようにしましょう。彼女が水泳のレッスンを授けている事実は、彼女がその目的の為に最適の装いをしている事をば意味しませんでした。彼女は競泳用では無く、他の三人の女の子と同じ型の水着を着ていました。テレビで女の子が着ているのを見る、上下に分かれた、あの種類です。彼女の濃い青の水着を着て、滋子は僕の前に立っていました。僕はベンチに腰を下ろして、見ないようにしました。気分が悪いと云いました、家に帰らなければならない。彼女は僕の隣に掛けて、あの深刻そうな、ラファエロの目で見つめました。

遺書はつづきます。[編者]


伶門のタイプライタ原稿に忠実な翻字は以下で

https://db.tt/mcKCVKog

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