4/10(日)
今朝から起きられるようになった。今は、嘘のように、体に、力が感じられる。頭の中は、脳の髄まで覚醒したような爽快さ。そのはずだ。金曜日の晩から、今朝まで、一度も、目が覚めなかった。三十時間ほど眠続けたらしい。
まだ明切らないうちに、鶏の声で目が覚めた。窓をひらくと、テテマロが、小屋から飛出してきて、本当に情ない、物欲しそうな顔で見上げた。私が、 「テテマロ。」と呼掛けると、狂ったように吠出す。早朝から、とても迷惑だから、急いで、家の中に入れて、餌をやった。よっぽどおなかが空いていたのね、 もん君が、お粥の残を与えていったようだけれど。ねえもん君、あなた、どういうわけでテテにそんなに冷淡なの!それでも名付親なの!そうね、あなたは猫派 だものね。猫に頬擦なんかしちゃって、いつか貴方の大事なネコチャンを追っかけまわしたもんだからまだ怨んでいるんだわ。言ったでしょ、あれは私がけしか けたんだって。貴方はネコチャンの可愛がりかたがあんまり馬鹿らしくて見ていられなかったから、私も対抗してこの子を飼うことにしたんだわ。焼餅を焼いた んだわ。目が覚めたら私も酷くおなかが空いちゃった。スキム・ミルクとパンを食べながら、これを書いている。テテがそばに来てオスワリをして主人の御機嫌 伺。視線を向けるのを待つように首を傾げて見上げている。鼻の頭を嘗める。情ない唸声を上げる。一週間、彼女も心細かったのね。目顔で答えると、甲高い、 悲鳴のような声をあげる。5時50分。どんよりした空。心は楽しんでいる。シャローム。こんな言葉が湧出る。さあ!これから一週間分の家事。さっき台所を見たら、このあいだのスチューが腐敗しかけていた。パーラーもそのまま。これからやって来るのね、坊が。
一緒に朗読する本を選んでおかなくては。私も、東京言葉には自信がないけれど。訛を矯正するなら、東京人の書いた物が良いのかな。「午後の曳航」なんか面白いかもしれない。「痴人の愛」。んん、でも、内容が内容だから、没かな。もっと別な物、いっそ、童話みたいな物から始めるのが良いかしら。聖書。 訳文が少し味気なさすぎるかな、あの新改訳は。えい、片付をしながら考えるとしよう。早くやってしまおう。ぐずぐずすればうんざりしてくるから。我が愛する者は我にとりては我が胸の間に置きたる没薬の袋の如し、シャローム、彼夜一夜此に臥せり。
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
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