ジャンに並ぶ自慰の熱心な奨励者はテリーでした。彼は自慰が“サイコウに気持ち良い”と云う見解を持っていました。彼は得意な数学を使って自慰の過程を分析しました。それはこのような事でした。まずは、裸の女性(綺麗な顔をした方がより合目的的)の写真が沢山載っている雑誌を開いて、ページを捲ってゆけばゆくだけ(然るべき映画を観ても同じ効果をもたらすが)下着がきつく感じられて来る。其れの与える圧迫感が気になり出した其の布切れを、おもむろに取り外す。指、或いは掌、或いは両方(場合に因ってはkで始まる日本の食材、その他あらゆる口にすべからざる物)を用いて、体 ─ まあ、単純さの為にであるが、まあ、圧縮不可で完璧にリジッドな体 ─ その表面上の全ての点に、時間の機能として狂暴に変動する圧力を加える:例の布切れにでは無く、勿論。待つこと凡そ300秒。“気持ち良さ”はこの300秒間、時間に対して急激な曲線として示される。(ベースは1に非常に近いと考えられる、でなければ・・・。)300秒に最大があり、そこで機能は途切れている。そこに大きなジャンプがある。300から凡そ330秒(個人差はプラス・マイナス15秒ほどあると云う)の間で、曲線は線型に0に到達する、つまり急降下するのだが、凡そ10の箇所に於いて途切れたジャンプがある。(ジャンプの個数にも、上の15秒に対応する個人差が予想される。)そして、甚だしいパラドックスではあるが、最大の起こる300秒でよりも、他の途切れでこそ一般には楽しむ。(これの説明として、“気持ち良さ機能”の最大は実は300秒には無くて、他の途切れの内の一つにあり、しかも、それら10箇所の内の複数に於いて、300秒での値を凌ぐ、こんな事が考えられるであろう。)
“全くの話、急激に気持ち良くなるんだ!”とテリー。それが彼らの云う自慰でした。それが彼らの射精でした。ジャンは嘲笑するように僕に尋ねたものでした、“綺麗な女を見たらお前はhardにならないのか?雙葉の********・***** 、彼女をget laidしたくないのか?”
僕は彼女を*** ****したくなかった。綺麗な女を見て僕は****になりませんでした。自ら汚す時は雑誌を見ませんでした。射精の衝動を起こす為に雑誌が必要だったのなら、僕はどんなに幸せだったでしょう!人生は平穏だったに違いありません。今でも僕にとってそうであるように、射精衝動は雑誌を[めく]捲るページ数とは無関係だったのです。むしろ、『孟子』を捲るページ数と相関していた。ある夕方、漢字ばかりが縦列を作すその本の意味がなかなか分からず、辞書を引き引き苛立たしい思いで読み続けていた時、我知らずズボンの上から性器をいじっていました。若し読むのをふと中断してその事で何かを思ったとしたなら、そんな汚い物に触れていた事にただ嫌悪感を催しただけで、それ以上の事は何も無かったでしょう。何か考え事をしている最中に我知らず指で鼻孔を掃除している事に気付く時と同じように。罪悪感はありません。急に何かが痙攣したように感じて手で強く抑えました。もだえながら体を二つ折りにする恰好になりました。頭が真っ白になりました。この初めて汚れた折、今のが性欲の仕業だったのだと直ぐには心付きませんでした。人間が生殖する為に男女が性交するものだとは、本で良く知っていました。しかし、それは、今自分が体験した事と結び付かなかったのです。
遺書はつづきます。[編者]
伶門のタイプライタ原稿に忠実な翻字は以下で
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