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己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
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   僕は第二学年にいました。担任の先生の名前を覚えているので確かです。彼の名前はブラザー・バールドでした。〈天野注。伶門が通ったセント・ジョセフ・カレッジの授業は、多くブラザーと称する[いるまん]修道士、或いはファーザーと呼ばれる神父が行った。第二学年とは小学校のそれ〉ある日、授業中に戦争の話をしていました。僕は手を挙げてブラザー・バールドに聞きました:理想的な爆撃機は何か知っていますかと。彼は何時もの人の好さそうな笑顔の上に位置する眉を寄せて“理想的な爆撃機!それは上等な単語ですよ、‘理想的。’高等学校の単語です。良く出来ました!”と云って皆の前で褒めて呉れました。彼は質問を理解していませんでした。“先生、僕は理想的な爆撃機が何であるか云えます。それはB29です。それは最も爆弾を落とすのに適している飛行機だからです。でも、それは理想的な飛行機ではありません、なぜなら飛行機の最も飛行機らしい機能は爆弾を落とす事で無くて、人間を高速で空中輸送することだからです。でも爆撃機と云う特殊な飛行機の中ではB29が理想的です。僕は理想的な飛行機だって知っています!”僕はブラザー・バールドの驚きの表情をまだ覚えています。僕はその少し前に自動車に興味を持ったので、それに就いて読める物は手当たり次第に読みました。そこから交通手段一般に興味が広がりました。自動車からトラック、バス、オートバイに移り、そして忽ちそこから船、飛行機、ロケットへと拡大していきました。僕は何時も本や百科事典ばかり読んでいるので、自分が他の男の子たちと非常に違っていると知っていました。彼らを愚か者と決め付けていました。ブラザー・バールドなら僕を分かって呉れるかどうか、彼を試している積もりだったのです。僕のこの理想的なものへの憧れは、僕自身が判断しうる限り、外より植え付けられたので無く、生まれながらにして持っていたものです。そうして、云いました通り、四才の頃には、日常生活で目にする品々を[ふるい]篩に掛けていました。

   僕は十四才でした、そして第九学年にいました。もはや色ペンとレコード・プレーヤーと飛行機は僕の興味の対象である事を止め、複雑な分析の本が、それらに取って代わっていました。他の九年生達の多くは、僕と大変違った興味を持っていました。彼らの頭脳は異性の複雑さを分析するのに忙し過ぎて、数字などを分析していられませんでした。ジャンは分析家の中で最も物言いがはっきりしていました。

   それは五月の、軽井沢への修学旅行での事でした。ジャンは、素晴らしい雑誌を何冊か手に入れたから、それらを楽しみたい者は彼の部屋へ来いと誘いに来ました。僕のルームメートも分析家だったのです。“レーモン、何でお前は来ないんだ?お前も気持ち良くなりたくないのか?”とジャンは云いました。“放っておいてくれ、”と僕は云いました、“僕はなりたくない。” “偽善者め。一人で自分の寝室にいる時、気持ち良くなっていないなんて云うなよ、”とジャン。“お前の好きなように思え。僕はならないんだ、”と僕。僕は嘘を云っていませんでした。勿論、彼らがどのようにして気持ち良くなっているのかは、百も承知でした。

   なぜなら僕は習慣的な自慰者だったから。それでいて僕はジャンに嘘をついていませんでした。僕が自慰する時、気持ち良くありませんでした。それは痛かった。僕はそれをしたくなかった。しかし、その要求は圧倒的でした。苦痛にも関わらず、それをしなければなりませんでした。さもなければ、僕は思考する事が出来ませんでした。思考出来ない事は、僕には死を意味しました。

   八センテンス前に云った事を修正させてください:僕は完全には嘘をついていませんでした。言い換えれば、部分的には嘘をついていたのです。ジャンは外に聞いた事がありました;それに対して僕は嘘を云った;“お前は自慰しないのか、レーモン?”

   しかし、僕の嘘は嘘では無かった。僕の自慰が彼らのそれとは違うと云う意味に於いて。僕の生物の教科書にオルガズムと自慰に関するこう云う記述がありました;僕は一字一句覚えています。まずはオルガズム。それを定義してこう云ってありました;“男性の場合、その直後に精液の放出を伴う快い感覚。”次に自慰;“思春期に達した男の子は、自慰と呼称される活動に従事する事が、一般的に知られている。オルガズムを得る目的で人が自身の性器を操作するこの行為は、成人期に入りつつある男の子(と女の子)にとって正常であり、節度を以て行われれば健康に有害では無い。”これを見れば、僕の行為は正常で無かった。或いはもしかしてそれは自慰では無かった。僕はそうで無いと決めました。

遺書はつづきます。[編者]


伶門のタイプライタ原稿に忠実な翻字は以下で

https://db.tt/mcKCVKog

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