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己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
176/197

ちょっとまた編者のことば                          

下の文は、2006年の7月に、わたくし天野なほみが筆をとりました。本編の3章目にあたります。第1回の『美人説』、及び、第2回 ~ 175回で掲載した『己呂武反而』を受ける形で、ここ第176回に挟むものです。インターネットで公開する際に若干手を加えてあります。中で言っている2章、4章、跋文、とは、

2章 = 第2回 ~ 175回 = 『己呂武反而』

4章 = 第177回 ~ 195回 = 『遺書』

跋文 = 第196回  を指します。


なお、おしまいの方に「鎌田滋子、山手から二十四年の思い云々」とあるのは、序章において次の著名な一文に言及した、その箇所に共鳴させる意図で置くものです: さあ、ここからの2分15秒がA・S香、長野から八年のおもい!


覚えていて下さるだろうか。お別れする前、わたくしは桜木町でタクシーを降り、京浜東北線に乗り換えて、アポイントメントがある川崎へ向かっていた。今年2006年3月12日、19時頃のことだった。『美人説』はお喋りが過ぎる、お前さんの脱線癖はどうにかならぬか、山手発川崎だったらあの半分の枚数で行けたはずだ、との、校正係からは御こごとなので、ここは手短に申し上げよう

   滋子に私は二つの件で使いを頼まれていた。ひとつが、山手へ行ってバインダーを取ってくる事。只今お読みの『己呂武反而』が中身だった

   残るひとつは、川崎在住の小林信[まこと]牧師に面会して、一通の手紙に関わる証言を得る事。手紙と云うのは、次章に訳出する、甥の伶門[れいもん]が送った文で、1982年11月24日の日付があり、翌25日の消印、パソコンの原型をなす所のタイプライタと呼ぶ昔の機械を用いて弾き出された、長大な英文だ。驚いたのは、字句を訂正した痕跡が無い。(パソコンと違ってタイプライタなるやつは、一度キーを押し損じたらそれっきりで、改めたければ修正液を塗った。推敲は色鉛筆と鋏でやった。)それはいいが、書いてあるセンテンスは長く、全体的に難解、所々意味不通、私も慣れない仕事なので骨が折れた。これで翻訳家デビュと云うわけだ

   詳細は跋文で述べるが、手紙を、牧師は26日の夕方に受け取った。以降、どう云う事が起こったのか、話して貰い、活字に移す ・・・・・・ 要するに、滋子の望みは次のようなことである。すなわち、自身の『己呂武反而』と伶門の手紙とを本にして貰いたい、更には、二つの文章を一つに括るものとして、得た証言をも併せ録し、一冊に編んで欲しいと。2章、4章、跋文にあたる

   私が変に思い、牧師は想像だにしなかった事実は、手紙をコピー機で複写した写しが、滋子の手元にあるのだった。牧師が二十四年前の書簡文を保存していない場合を考えて、京都で預かった写しをバッグに入れ、3月12日、日曜日の晩、私は師宅を訪問した

   さて手紙を印刷物にするのに、了解を求めるべき相手はただ一人より外にいない。と云うのが、一人息子たる伶門の血縁には、三才の年に離婚しフランスに帰国したと云う母親、この母方を除くなら、残るは牧師とその家族くらいなので。母親はと云えば、息子の葬式にさえ姿を見せなかった程だし、無論込み入ったことは知らないけれども、話では、離婚後全く小林家と関係を絶った。伶門の父、小林通[とおる]氏は、信師の兄である。伶門が死んだ翌年の1983年、9月2日、大森の自宅書斎で割腹して亡くなっている所を弟に発見された。五十一才だった

   甥の手紙を、叔父は大事に持っていた。そして快く滋子の希望に応じてくれた。日曜の晩、約二時間半に渡って、手紙の主が死亡したいきさつが明らかにされた。それを跋文にまとめる

   四月初旬、師は大徳寺の家を訪れ、滋子と1982年11月以来の再会をしたそうだ。病気の彼女を見舞うことと、あと、わたくしが伝えた彼女の希望を、直接会って聞くことが目的だった。鎌田滋子、山手から二十四年の思いが三百九十ページの読み物となって書店に並ぶ時、師と私は一冊携えて、今度は二人で見舞う相談をしている




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