「今度はオイフォリオンを脱がす場」7月30日夕刻、東山七条パークホテルの一室。アンとオイフォリオンは二週間ぶりのキスと抱擁を交している。アンは可愛く振舞って立上ることをせず、ベッドに横たわり、オイフォリオンが覆いかぶさる。本当は乗っかる。鼻を擦合ったり、頬擦をしたり、見つめあったりでアンはとろけそう。(又冒頭暫くは馬鹿らしいですよ?でも読んで読んで!)
A:三回言って。
E:三回では言えない。
A:じゃ、何回でも。
E:二週間も離れていたんだよ?言葉でなんか言えないよ。だからこうするんじゃないか。(ちゅっ。)そして無言のうちに滋子を僕のものにする。
A:まあ。ひろおきさん、何処でそういうラインを思付くの?
E:思付くんじゃない。僕の思そのものだ。でも滋子の顔はどんな綺麗な言葉を使ってもけなす言葉にしかならない。所詮words, words, and just words.
A:まあ、そんなことを言われて、私、どうしましょう。
E:どうもしなくていい。ずっとこのままで。
A:憎いわ?ひろおきさんに見つめられると、私、何も分らなくなる。
E:じゃ、この意味が分らない?滋子、僕は滋子を愛している。滋子、滋子を愛しているのは僕だ。滋子、僕は滋子を愛しているからこうする。(ぶちゅー。)
A:ねえ、ひろおきさんが今のような言葉を囁いた人は今まで何人?
E:ゼロ。
A:嘘嘘、そんなことは信じない。ねえ、私ってしつこい?同じことを何遍も聞いてしつこい?
E:ちっとも。滋子みたいな人にそんなふうに思われて僕は果報者。
A:じゃ聞いちゃおう。ねえ、何人?電話じゃなくて顔を見ながら聞いておきたいの、どうしても。教えて教えて。正直に言って。私、すべて受入れる。だから、ひろおきさんが今まで交際した女の人は何人?
E:ゼロ。自慢じゃないけど。
A:嘘。絶対に嘘よ、そんなこと。ねえ、今のうちに白状しちゃいなさい?あとが楽になるでしょう?
E:じゃ、一人。
A:(むっくりと頭をもたげて)本当?ねえ、本当?誰なの?ねえ、誰?初恋の人?
E:そう。
A:厭だあ!どうしよう。じゃ、その人ともキスなんかしたの?
E:した。
A:信じられない!もう、どうしよう。悔しいいい。誰?ね、誰?
E:ねえ、これからいつもそうやって可愛くしてくれるの?僕嬉しいな。焼餅も悪いもんじゃないね。癖になりそう。
A:真面目に答えて!貴方今まで嘘をついていたんじゃない。その人何ていう人なの!隣の学校の子?
E:「貴方」か。僕、嫌われた?
A:きらい!嘘つきはきらい。
E:嘘でもないんだけどな。無理やり捻りだした答。(ニヤニヤ。)
A:何?どういうこと?
E:その一人とは滋子ちゃんていう可愛い一人。
A:(むしゃぶりついて)許さない。からかってばかり。
E:からかってないよお。全部正直に答えている。
A:じゃ、ほかにはいないのね?今まで私のほかには一人もいないのね?
E:いない。誓っていない。
A:手も繋いじゃ厭よ?そういう子もいない?今まで一人もいなかった?
E:いない。いなからプロムの相手も紹介してもらったんじゃないか、友達に。元町を歩いているところを滋子に見られたとき、あれが生れて初てのデートだよ?選りに選ってそこを押さえられちゃうんだからな。僕は滋子に隠れて悪いことはできないよ。
A:そう。できない。絶対にさせない。ああ、良かった。もー!さっきは目の前がまっくらになったわ!じゃ、初恋の人は?ね、教えて。焼餅を焼かないから教えて頂戴。
E:滋子から教えてよ。
A:知りたい?
E:ん、知りたい。
A:あまり知りたそうでもないじゃない。もっと焼いて。焼餅を焼いて頂戴。
E:焼けてきた。さ、誰だ、その初恋の野郎というのは。
A:パパ。
E:ちぇっ。じゃ、どうしたって敵わないじゃん。熊みたいな大きな人なんでしょう?
A:物凄くでっかいわよ?私が可愛く見えるほど。
E:滋子はどこからどう見たって可愛いよ。僕、滋子の大きいところまで好きになっちゃった。
A:エッチ!
E:滋子こそ勘違だよお!一体何を考えてんの?
A:ひろおきさんが悪いわよ。だって、こんなにくっついてそういうことを言うから。
E:言うから何?
A:厭。意地悪。
E:ますます好きになる。でも、白状するとずっと気にはなっていたんだ、実は。僕、エッチだから。
A:まあ。何が?
E:(いきなり其処に頬擦をして)此処が。
A:(感激して)でも、厭じゃない?こんなのみっともなくない?
E:何でさ。厭なわけがないじゃん。滋子には丁度これ以外にありえない。此処も大好き。滋子の全部が大好き。きらいなところはどこもない。全部愛している。
A:私、ひろおきさんが好きよ?もっと抱締めて?
E:いいの?
A:貴方にはそうされたい。お願、ぎゅっと。
E:(強く抱付いて)心臓がどきどき鳴っているね。僕も頭がおかしくなりそう。
A:(オイフォリオンの頭を抱きかかえて額に口を付け)私、幸。ずっとこうしてほしかった。
E:どうしたの?泣いているの?ねえ、滋子、どうしたの?(優しいオイフォリオンの顔が私の顔の上に来て見つめる。限なく清らかな接吻。髪の毛を撫でて)滋子の髪の毛は多いね。とても黒くて、しっかりしていて、良い匂。
A:あまり多くて厭じゃない?
E:厭なところなんかあるもんか。全部好き。全部愛している。ね、何かあったの?
A:嬉しいだけ。
E:今度は僕から聞いていい?
A:何?
E:滋子はどうしてこんなに綺麗なの?
A:まあ。
E:泣いた顔は笑った顔より一段と素敵。世の中に滋子ほど綺麗な人がいるかしら。
A:どうしましょう。
E:ニキビが可愛い。ちょこんと。
A:あまり見ないで?気にしているの。
E:泣いていいよ?もっと見ていたい。
A:ね、ずっと愛してくれる?
E:そんな質問に答えなくちゃいけないの?
A:答えて。
E:僕を見くびらないで?先月の十六日の晩から、僕が考えたのは滋子のこと以外にないよ?今月十五日の昼からは、考えることも思うことも全部滋子になっちゃった。寝ても覚めても滋子よりほかのことは、頭に入ってこないように遮断している。全部雑音。考えれば考えるほど、これは運命だから、僕はもう決心した。ほかのすべてを捨てても滋子を取る。こうなったら僕が滋子を離さない。
A:本当?何があっても?私にどんな厭なところがあっても?どんな欠陥があっても?
E:まだ僕を小僧あつかいにしている。僕は滋子のために脱皮しようとしているのに。You hurt me.
A:じゃ、こんなことを、女の口から言うのは、物凄くはしたなくて、厭だけれど、じゃ、思いきって言うけれど、でもどうしよう、言いにくい、ねえ、
E:滋子、僕なりに少しは成長した心算だから。この二週間、毎日毎日何時間も、ただ電話したんじゃないでしょう?僕の方に垣根はないよ?全部とっぱらった心算。だから僕は恥ずかしいことでも、恥ずかしがらないことにした。ねえ、僕は滋子さえ厭でなかったら滋子とこのまままじわりたい。
A:嬉しい。ありがとう。私で良い?
E:そんなことは滋子よりほかの人とは考えられない。
A:(涙をぽろぽろこぼして)私、この気持、言葉にできない。私を厭らしく思う?ねえ、浮気な軽い女のように思う?
E:ちっとも思わない。断じて思わない。滋子ほど慎みぶかくて嗜のある人はいないと思っている。気やすめに言うんじゃないよ?本当に思っていることしか今日は言わない。ねえ、滋子も僕がその場かぎりのことを言っているんじゃないってことは分るでしょう?お世辞や気やすめじゃないってことは僕の目を見れば分るでしょう?
A:分る、分る。ひろおきさんって良い人、立派な人。私が馬鹿だった。許して?
E:滋子、僕は心の準備をしてきた。電話で話していてこうなるだろうと思っていた。でも、あまり期待しないで?僕、なにしろ、
A:厭。そんなことを言わないで。それじゃまるで私が、私だって、私だってこんなふうになったことなんかないのよ?誰かと二人きりになったことなんかないのよ?貴方が初てなのよ?分って?
E:それなのに僕なんかでいいの?僕は滋子が厭なら仕方がない、諦める。ただ滋子が、その、電話の様子で、何となく、その、話しかたから、
A:厭厭、もう言わないで。
E:ねえ、滋子が恥ずかしがるのは可愛いよ?僕はそういうところが大好き。けれど、今日は気持を言合おうよ。その為にわざわざ会いにきてくたんでしょう?
A:ひろおきさんって良い人。ありがとう。好きよ?
E:ねえ、僕が喋るから滋子はイェスかノーで答えて?それなら良いでしょう?僕も綺麗な人の前でこんなことを告白するのは恥ずかしいよ?でも、今日はそうした話をしようと決めてきた。実はね、僕、滋子と電話をするようになって、よく夢を見るようになった。滋子とまじわっている夢。だから滋子ももしかしたら同じじゃないかと思った。僕は滋子とまじわりたいよ?でも、滋子が厭なら僕はあきらめる。滋子はどう?まじわってくれる?
A:イェス。
E:滋子、ありがとう。ひょっとして滋子も同じ夢を見た?
A:イェス。
E:やっぱり。そうだろうと思っていた。僕の子供を姙娠したいんじゃないの?
A:(ぼろぼろ泣きながら)イェス。
E:今日はその心算できたんでしょう?
A:イェス。
E:僕には理由は分らないけど、滋子はどうしても赤ちゃんが欲しいんでしょう?それも僕のじゃなければ駄目なんでしょう?すぐにも姙娠したいんでしょう?
A:そう、そう、そう。おいおいおい。ひろおきさん助けて。私、その夢のとおり。
E:じゃ、滋子の今の、うつつの気持はどうなの?何遍も言うように、僕は滋子とまじわりたい。それ以上の幸はないよ?滋子はどう?夢の気持じゃなくて、今のうつつの気持は、どう?僕とまじわりたいの?どうしてもまじわりたい?僕の欲望に合せるのではなくて滋子自身がそう思っている?僕はどうしてもまじわりたい。滋子はどうしても?
A:イェス。
E:滋子、ありがとう。
A:でも、貴方はいいの?今日、私、きっと姙娠するわよ?貴方はまだそんなに若いのに、
E:ねえ、滋子、「貴方」はよそうよ。三回名前で呼んで?
A:おいおいおい。ひろおきさん、私、貴方の前ではまるで子供になっちゃう。どうすれば良いの?
E:僕は滋子と結婚したいもの。何が何でも滋子と結婚するもの。ちょっと位早く赤ちゃんが出来たって構わない。学校なんかやめて働く心算。でも、滋子はどうなの?そんなことをして困らない?
A:これは私の思がひろおきさんに通じたんだわ?でも私、ひろおきさんに絶対に学校をやめほしくない。大学にもいって?ひろおきさんには迷惑を掛けない。赤ちゃんの面倒は私と両親で見る。だから、その、貴方とは、
E:赤ちゃんだけ生みたいんだね。分らないな。でも、僕は滋子と結婚するよ?結婚もしなのにまじわることなんかできない。
A:何て貴方は良い人なの?私、本当に心から愛します。尊敬します。
E:僕も心から滋子を愛するし尊敬する。滋子ほどの人がそこまで思込むんだからよほどの理由があるんでしょう?
A:ひろおきさんが大学を出たときに、もしもまだ私を愛していてくれて、しかも結婚してくる気があるんだったら、私はそのときまで待ちます。赤ちゃんのことは気にしないで勉強して頂戴。
E:そういう言いかたは酷いな。いくらちんちくりんの僕でも一往男のはしくれの心算だよ?心から愛している滋子に「もしも」なんて言われると自尊心がなくなっちゃうよ。
A:おいおいおい。何て貴方ってすばらしい人なの?私、ひろおきさんと結婚する資格なんかない。私、あきらめる。
E:ちょっと、何を言っているの。僕はあきらめられないよ。さっきも言ったでしょう?もう僕が滋子を離せないんだって。焼餅を焼かれる癖まで付いちゃってすっかりスポイルされているんだから。
A:おいおいおい。ひろおきさん素敵いい!大好き!愛している!おいおいおい。
E:滋子ちゃん泣声が大きいんだね。驚いちゃった。フロントに通報されちゃいそうだよ。
A:おいおいおい、からかわないでええ、本当に泣いているんだからああ。
E:可愛いな。どうしてこんなに可愛い人が今まで放っておかれて僕なんかが選ばれるのかな。嘘みたいな話だな。ほら、滋子ちゃん、涙を拭いて。(オイフォーリオン、ティッシュで拭う。それからアンの顔中にキスを浴びせる。段々感情が高まってきて、彼の唇は首筋までおりてきた。アンは夢の中。肩を撫でいた彼の右手が脇に潜込んだときに、アンははっとして)
A:待って。
E:御免。御免ね?僕、エッチだからさ。
A:そうじゃないの!あまり泣かせないで。
E:そうだよね。まだ話がすんでないもんね。滋子は姙娠したら、じゃ、どうする心算だったの?
A:私が育てる。坊もきっと可愛がってくれるわ?パパとママも孫の顔が見られて大喜する。ひろおきさんは養育費なんか全然心配しなくて良いの。もしも、そうか、御免ね「もしも」だなんて。何て言おうかしら。認知するのは結婚してからで良いの。
E:滋子は、じゃ、いつ結婚してくれるの?
A:それは私が聞くことよ?
E:だから、僕いますぐにでも。明日にでも籍を入れようよ。畜生、年齢未満だな。でも九月になったら僕の自由意思で結婚できるんだ。あとひと月とちょっとだな。そしたら結婚しようよ。赤ちゃんはそれからでもいいんじないの?
A:私、ひろおきさんの将来を台なしにさせることはできない。
E:じゃ、やっぱり、結婚はしなくても赤ちゃんは欲しいんだね。分らないな。どうして?どうして滋子ほどの人がそう考えるの?
A:結婚したないんじゃない!したいの!ひろおきさんと結婚したいの。死ぬほどしたいの。赤ちゃんなんかできなくてもひろおきさんとは結婚したいの。私は赤ちゃんよりひろおきさんを愛しているの!
E:ますます分らないな。じゃ、結婚しようよ。僕は公園でキスした日にそうきめたよ?だって、滋子もその気だったから。僕にはそう思えたけれど。僕の自惚かな。
A:違う違う。私って何て幸なの?私も結婚するんだったらひろきさん以外にいないって、泊りにきてくれた日にはもうきめていたのよ?
E:じゃ、きまりだ。おっと、大事なwords を忘れていた。滋子、will you mar、
A:待って。待って、待って。私、言うことがある。あのね?ああ、どうしよう、貴方に嫌われたくない、
E:昔結婚を約束した恋人がいした!どうだ。
A:どうして?なぜ分るの?
E:なぜ分るって、大概分りすぎるシチュエーションですよ?今の場合は。姉貴の見るテレビだとか映画もこういう筋書だもの。更には、その恋人とは実質もう、
A:違う!そうじゃない。変なことを言わないで。
E:御免。そうだよね。滋子はプロテスタントだもの。調子に乗っちゃった。御免ね?滋子、御免。
A:いいの。
E:僕が言いたかったのは、仮にそんなことを気にしているだったら、僕は受入れるってこと。もしもそんなことでためらっているんなら、それには及ばないよ?
A:ねえ、じゃ、今日は何を言っても厭らしい下品な女って思わない?
E:滋子が言うことだったら絶対に思わない。
A:私は死ぬほど恥ずかしい思をして言うんだってことを分ってくれる?
E:勿論。厭な言葉でもやむにやまれず口にしなくちゃいけないことだってあるよ。誰だって。僕なんか下品だからついこのあいだも"*p ****s, you moth** ****er!"って三度いってやった。
A:嘘ばっかり。ひろおきさんって何て素敵な人。又泣きそう。
E:あれあれ。じゃ、滋子の言う恥ずかしいことってどれほど恥ずかしいと?F=maとか?
A:あのね?私たち、今日は心の結婚をして、この部屋で二人だけの誓を立てて、それから夫婦なれない?
E:僕はその心算で来たよ?
A:そして籍を入れるのはずっとあとにしましょう?
E:滋子がそうしたいのなら。でも、滋子の宗教は許してくれるの?婚前交渉は禁じられているんでしょう?
A:んん?だからちゃんと神様の前では結婚するの。牧師さんもいないし、誰も立会人いないけれど、神様に立会ってもらって、私達のあいだで誓を交すの。人は何と言おうと、私達は夫婦よ?
E:滋子、すばらしく美しいことじゃないか。何を恥ずかしがることがあるの?
A:んん?でも、そのあとは、その、
E:夫婦のまじわりをするんでしょう?当然。
A:構わないの?
E:滋子が構わないんなら。僕はそうしたい、どうしても。ねえ、九月に籍は入れたくないんでしょう?籍を入れてからでは駄目なんでしょう?いや、非難しているんじないよ?僕は、形なんかどうでもいいよ。実質結婚するんだもの。僕にはそれが大事。ただひょっとして滋子は世間の目があるんじゃないかなって。
A:私、今日ひろおきさんの奥さんになって、すぐにでも身籠りたい。
E:ありがとう。僕も今日滋子の旦那さんになって、すぐにでもまじわりたい。
A:ひろおきさんって良い人。じゃ、私、姙娠してもいいのね?
E:滋子ちゃんって最高に可愛い。こんなことを言出すのに恥ずかしがって赤くなってもじもじして。
A:私、もっと可愛なる。可愛い奥さんになる。今日結婚してもひろおきさん今までどおりの生活をして?大学にもいって、社会に出て、これで良いと思ったときに私と赤ちゃんを迎えにきて?それまではパパに世話をしてもらう。でも、山手に遊びにきてくれなくちゃ厭。新学期が始ったらしょっちゅう来て。だって旦那さんなのよ?んん?あの家から通って?そして毎晩私を抱いて。厭だ、どうしよう、毎日私を可愛がって!それから、もしも留学するんなら私と赤ちゃんも付いていきます!大丈夫よ。パパは許してくれる。私と孫の為にならなんだってする。ひろおきさんの御両親には入籍するときに紹介して?パパとママはひろおき さんに会いたがるけれど、ひろおきさんが厭なら入籍してからでも良い。
E:僕は自分の親にも会ってもらいたいし滋子の御両親にも会いたい。
A:ひろおきさんの御両親とは入籍後にさせて?私、御両親に合せる顔がないもの。
E:滋子がそうしたいのならそうしよう?僕は滋子が大切で、あとは大したことじない。じゃ、籍は入れなても実質夫婦なんだね。僕に経済力がついたら籍を入れるんだね。
A:そうしてくれる?それから、じゃ、厭でなかったらパパとママに会ってやって?パパの喜ぶ顔が見たいもの。ひろおきさん、安心して頂戴?パパ決して怖い人ではないのよ?私に赤ちゃんができるって知ったら、ひろおきさん、きっと下へも置かない持てなしよ?本当よ?これ。パパも籍なんて形にはこだわらない。孫の顔が見られるだけで死ぬほど喜ぶの。ママもそうよ?だから、坊と三人で行きましょう?
E:僕ほどの果報者はいないよ。
A:ひろおきさん大好き。私って何て幸なんでしょう。
E:いつ会わしてくれるの?御両親に。
A:お盆休。坊、仕事がきまったでしょう?休の前は研修で忙しいの。休あけから仕事はじめ。そんなに日数はとれないけれど四五日京都を見せてあげる心算。坊は私達のキューピッドでしょう?ひろおきさんを紹介するときには絶対にそばにいてほしい。それからみんなで川床料理でも食べて、一緒に送火を見ましょう?そうだ、坊には鱧寿司を食べさせなきゃ。ああ、何て素敵でしょう。そのときにはひろおきさんも何とか誤魔化して紫野に一泊して?そしてパパの背中を流してって?私、泣きそう。
E:滋子、僕、言葉にならないよ。詩のようだなあ。僕も泣きそう。
A:僕、大丈夫?来月の十五日あたり、おとまりできる?怖い怖いお姉さん達の目が誤魔化せるかしら。滋子ママがお電話してあげましょうか。「ひろおき君はうちであずかりますから御心配なく。今お風呂に入っています。ちゃんと早寝させて明日間違なおかえしします。」って。
E:うん、ママ。だから早くおっぱい頂戴?
A:ばーか。エッチな人はきらい。ねえ、誓を立てる前にひとつ見せてほしいものがあるんだけれど。
E:何?
A:あのね?ああ、言いにくいな。あのね?
E:何?僕のちんぽこ?一往それらしき物は付いているよ?実はさっき勝手に暴れだして困っちゃった。何とかお役に立てるとは思います。
A:馬鹿。何を言っているの?きらい、そういう下品な話。
E:御免なさーい。
A:あのね?シャツを脱いで?
E:シャツね?パンツじゃなくて。
A:もう厭!
E:はいはい、シヤツを脱くと。たいしたマッスルじゃないよ?僕は。(シャツをとる。大層なめらかな肌。女のよう。)
A:黒子を見せて?
E:これ?
A:(涙がはらはらと)ねえ、ふたつあるわよ?小さいのがひとつ。
E:これは黒子じゃないでしょ。ただの点だよ。
A:やっぱり有ったのね。
E:ねえ、どうしたの?あれれ?どうしたのかな。ねえ、滋子ちゃん。僕、滋子ちゃんの泣顔を見ると抱きつきたくなっちゃうんだよね。
A:キスして?
E:滋子、僕たちは結婚するんだね。
A:初恋の人、誰だったの?(消灯。)
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
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