編者注:滋子の手書きでは、【▼○△○】の中の▼○△○はミセケチ。つまり、上から線が引いてあります。今後も【 】は同じ意味で使うつもりです。(天野)
6/28(火)曇りみ晴れみ
土曜日のこと。
ママは、鯖寿司と、わざわざ、雲母漬を買ってきてくれた。残念、坊は、じんましんが出るので、鯖が食べられない。急遽、鰻屋さんに電話を掛けたけれど、来るまで、湯葉のお吸物と、茄子ばかり、ぼりぼり食べて、あとは、チーズとかハムとかサラダで凌いでいた。
両親は、坊を気に入って、パパなんかは、酔ってくると、いつもの、お馬鹿な冗談を大声で連発して、家中に、笑声を谺させた。坊は、パパと並ぶと、本当に子供みたいで、いつもより、一層可愛らしく見えた。こんなことなら、鱧寿司にするんだった、今度はそれにしよう、由加里ちゃん、鱧は大丈夫かいと聞いたが、丁度、前にハムが出ていたので、坊は勘違した。御飯にハムをのせるんですかと尋ねたときは、大笑をして、そうだよ、中華街に行ってハムを買ってこよう、早速、今晩やってみようと言った。坊は、鱧を知らなかった。鰻に似た魚だと教えると、坊は、パパを恨んで、滋子お姉ちゃんとそっくりなんですねと言った。そうそう、滋子の顔は私似だ、母さん似じゃない、私は、こう見えてのとおり、ハンサム・ガイ、ハンサム・ガイといって、ハマのメリケン・レイディーに、始終追っかけまわされたんだぜ、こちらにおわすミス・ノブコ嬢に見初められてハートまでかっさらわれたときは憎まれたもんじゃん、「ノブタコに生捕られたハムサム・ガイは、とんだ食わせものだったじゃん。」ってね、どうだ、分るか、わはは、由加里ちゃん、どうだ今のは、滋子、え、久しぶりにさばさばした、わはは!と、そんな鰻のぼりの調子なので、残の三人はウィンクしあっているうちに、蒲焼が来た。由加里ちゃん、うちに遊びにきなさい、厭というほど鱧を食わしてあげる、なるべく早い方が良い、由加里ちゃん、いつ来るか、いや、滋子、このまま一遍帰ってきたらどうか、由加里ちゃんを連れて明日一緒に帰ろうという展開になった。相変らず、言うことが藪から棒で愛しちゃう。何て良いパパでしょう。何て素敵な人。伶門と良い勝負ね。娘でなかったら、どっちを選ぶかしら。ママは幸だ、そんなハムサム・ガイを生捕にして。それにしても、ノブタは、パパも酷いわね!どうしよう、又泣けてきちゃった。パパ、愛している!ママ、愛している!由加里、愛している!もん君、一番愛している!忘れてた、シュウ君、貴方も愛しちゃった、愛している!五人で十分。私は満足、幸。ほかは要らない。【森田協太郎、もう来ないで頂戴。】
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