シュウ君は、このような工合に、興が乗ってくると、よく喋るし、話も面白い。坊なんか、耳にすること耳にすることが珍しいものだから、つい、身を乗出して聞入ってしまう。偶然、シュウ君と、目が合ったりすると、俯いて、ただ、同席者の礼儀で耳を傾けるのだと繕っているけれど。ナンタラーキス君は、初、シュウ君を恨んだ。今では感謝していると言う。シュウ君が、ナンタラーキス君に言った、然ればで御座る、貴兄は異国びとであられる故、万一、事の次第露顕せば、ビザ手形御取上の上、国外追放も免れぬ所と相成ろう、特製牛鍋の一件、我等両名が間、些なる秘め事と致すべきか、方方御他言無用、下世話に申すおん墓場迄の御覚悟を、と。忠言に及んだ甲斐あって、ナンタラーキス君も、いっとき邪神に魅入られた我が身を深く愧じ、卒業した今は、正教導師の門を叩き、明暮懺悔に専心する日々。求法の生活に入ったとかや。Ouf.
マーロウを上演するに当って、部員同志、エリザベス朝言葉で会話する訓練を積んだので、変な癖が付いて、今も抜切らない。どうしても、遣取が時代劇になるのだと言う。本当かどうか。坊も、つい吹出さずにはいられなかった、澄ましていなければならないのも忘れて。でも、演劇部のみんなは、エリザベス朝に凝ってしまって、来年は、ジュリアス・シーザーをやるのだと意気込んでいる。そしたら、シュウ君、また忠言に及ぶんでしょうね、きっと、こんなふうに。うふふ、愉快な学校だこと。 Therefore, good brother, be prepared to hear: Men at some time are servants of their words. The fault, dear brother, is not in your gods, but in your tongue that you ground sesame. And not only seeds. The arsenic, too.
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
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