二度目のお茶を飲んでいるときに、部屋があいているから、今度出てきたら、是非、泊りにいらっしゃい、そして、朝から晩まで連弾しましょうと言ったら、急に取澄ましたようになった。「お姉さん二人と、同じ屋根の下じゃ、お母様がご心配なさるかしら。」といじめたら、「いえ、僕は、姉が三人もいますから平気です。実は、友人の所に宿泊する予定なんですよ。」「一晩位良いじゃない、いらっしゃいよ。」「でも御迷惑でしょうから。」「由加里ちゃん、良いでしょう?それとも迷惑かしら。」と、固唾を飲んで成行を見守っていた彼女に問掛けると、小さく「いいえ。」と言って下を向いた。このときも、二人並んで座り、私は、ひろおき君と向いあっていたので、彼は、坊の方を振向かなかった。「堅苦しく考えないで、アメリカンにいきましょうよ。一日だけルームメートになるの。ひろおき君さえ良かったら、一週間でも二週間でもウェルカムよ?勿論、お皿洗係をやってもらうことになるけれど。」「右腕の捻挫が、まだ治らないので、皿洗はできないと思います。」「じゃ、三日間しか泊めてあげられないけれど、それで良い?それとも、お友達を連れてきても良いわよ?お皿を洗ってもらうの。」「いいえ。」「そう、ひろおき君一人になっちゃうのね。いつにする?」「友達の所に行く前でも構いませんか、30日の日で。」「歯ブラシだのタオルだのは持ってこなくて結構よ?パジャマだけは持ってきてね?うち、男物はないから。お母様には、私がお電話しましょうか。ピアノの合宿だって。」「いえ、お袋は、僕がいないだけで清々すると言っていますから。僕が、何処で、何をしていようと、彼女は口出しません。」そのあとで、夕方になって、新横浜駅でのこと、初に坊と、次に、私と握手して、顔を赤くして、ずっと下から、ひたすらに見上げて、「由加里さん並に滋子さんと知合えて、僕は光栄です。荒っぽい男仲間と騒ぐのと違って、非常に有意義な時間を過すことができました。これから、帰れば、馬鹿な姉どもの相手をつとめさせられるんです。二週間後、又お目に掛れる日を楽しみにしています。どうか、僕を、一人の弟のように扱って下さい。」うふ。うふふふ。本当にタイプ。抱締めたくなっちゃった。全然、男の子みたいじゃなくて、野蛮じゃなくて、品があって、気取っていて、澄ましていて、女の子みたいで、ぶきっちょで、ぶっきらぼうぶっていて、伶門そっくり。顔はそうでもないけれど。
滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で
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