坊がNHKホールで、泣きださんばかり、あれほど動揺したのは、話を聞いてみれば無理もなかった。坊は、ずっと、何も言わなかったけれど、キクヤのあとでも、一度、彼を見た。私が、「最近、見る?」と聞いても、嘘をついて、見ません見ませんと言っていたけれど、実は、一度見掛けた。彼は、女の子と一緒だった。見るからに可愛らしいハーフの子だった。彼と、ハーフの子と、それから、もう一組、男の子と女の子が、四人で元町を歩いていた。この目撃事件のことは、昨日になって、エノキテイに行こうとしているときに、「お姉ちゃん、やっぱり、私、行かない。」と言って打明けた。「そんな弱気でどうするの!ガールフレンドかどうかも分らないじゃない。」と引張っていった。私が正しかった。恐らくバイロン君は嘘をついていない。あとで、ロシータで食事をしたけれど、出抜に、「ひろおき君、このあいだ、女の子と元町を歩いていたでしょう。私見ちゃった。」とぶつけてみた。咄嗟に、坊は、窓の方を向いて、墓地の上空を眺めて泣きだしそうな顔になった。
6/18(土)の記事は続きます。[編者]
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