表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
己 呂 武 反 而   作者: https://youtube.com/kusegao
131/197

                                      

計算に忙しかった。だから、蝶ネクタイにカットアウエー姿の巨匠が、最後に弾いた英雄ポロネーズなんか、ぼんやりとしか聴いていなかった。ああ、やっているな、変な解釈だな、オクターヴを、あんなふうに、勝手に下げたり、修飾的に付けたしたり、幻想ポロネーズも、さっきのエチュードも聴いていられなかったけれども、最後の曲でも、相変らずやっているな、今の、左手のBフラットは、はったりを通越して愛嬌だな、もしも、可愛いドレスに着飾ったガールフレンドが、うしろの客席から現れて、彼と手を繋ぎ、それを、坊が目撃するとしたら、愛の夢も、幻想と分って、家に帰ったら、赤いジャケットのホロヴィッツで、お口なおしのコンソレーションDフラットだな、エチュードの3番は、お姉ちゃんが弾いて聞かすのかな、修飾なしに。

   ところが、彼は一人だった。

   巨匠が、アンコールはやらない意味で、鍵盤の蓋を閉じてしまい、袖に退くと、聴衆は、席を立始めた。彼は、まだ座って、プログラムか何かを読んでいるようだった。坊は、生れて初てのコンサートに感激して、巨匠が、もう一度現れるのを待って、袖に目をやって、拍手を続けていた。バイロン卿は、どう見ても、連がいるとは思えない。けれど、もしも、何処か離れた席に・・・えい、ままよ、もう、ひとりでに、足が、彼の席に向っていた。「今晩は。」と声を掛けたら、彼が見上げた。目を皿のようにして、ひと言、「あー、どうも。」「今日は、お一人でいらっしゃったの?」「えー、まー。」「お隣、よろしいかしら。」と言って、隣の席に掛けた。「私、鎌田滋子と申します。先日は失礼を致しました、キクヤの二階で。覚えていらっしゃるかしら。」「はー、どーも。」と言って赤面。

6/17(金)の記事は続きます。[編者]


滋子の手書き原稿に忠実な翻字は以下で

http://db.tt/M2nc69Pb


目次はこちら

http://db.tt/fsQ61YjO

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ