6/6(月)雨
別行動a。坊も在宅。坊は、この時間、天気が悪くなければ、出掛けるのを常とする。薄化粧をして出掛ける。ある朝、「お姉ちゃんの口紅を試してみる?」と言ったら、素直に付けたので、さすがに女の子と思ったけれど、それからは、言われなくても、口紅はするようになった。自転車をこいで、図書館に行ったり、博物館に行ったり、テテマロを連れて、山手をうろうろしたり。坊が出掛けているあいだに、私は、ピアノを思切鳴らす。密に思っているのだけれど、あのように頻繁に出掛けるのは、何か、口で言っているのとは、別な用事があるらしい。特に、元町公園、エノキテイ、ブラフ・クリニックの、あの辺に、坊は重大な関心があるのだろう。お陰で、練習量が、急に増えて、ピアノの腕が上った。
坊の誕生日、キクヤの二階、あのあとでどうなったか。
「来ています、お願です、助けて下さい。」と慌てたかと思うと、背を向けて、テーブルにつっぷしている。真赤になっている。
演劇部の皆が下りていったあとも、まだ、同じ姿勢を続けているので、「行っちゃったわよ。今日は、シャンパンでお祝しなきゃ。」と言ったら、恨めしそうな目付でひと言、「ひどいです。」「何がよ。」「全部、滋子お姉ちゃんのせいです。」「行っちゃったのが?」「そうじゃありません。」「何が食べたい?」「あの人、よく見るんです。」「よく見にいくってことでしょう?学校に。」「違います。」「お姉ちゃんは見にいこうっ、挨拶もしちゃったし。お姉ちゃん、ああいう人がタイプだから。」「分りません。」「何がよ。」「お姉ちゃんの言うことです。」「見にいくなってこと?」「そうじゃありません。」「坊は、あの人のどこが良いの?」「知りません。」「全部が良いってことね?恋は盲目、春はあけぼの、坊の春は今、遅く来にけりキクヤに来けり君聞かずやこれ。」「何を言っているんですか。」「知らない。」「お姉ちゃんは、いつもそうです。」「人の恋の邪魔をしてくれるなってこと?」「恋じゃありません。」「愛。」と言ったら、「ははっ!」と頓狂な笑声。
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