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溶ける。  作者: ほしのひな
1/3

コーヒークリームガムシロップ



『不倫する人間ってほんとに信じらんない』


そんな細い身体の何処に消えていくの、と思わず問いたくなるような量のカルボナーラを、太陽の光が反射して光る銀のフォークにくるくると巻きつけながら、友人の絵里が言う。

よくある女子同士のランチの風景。


私と絵里はお店は違うけれど、同じショッピングセンターで働くアパレル店員で、昼休憩が被ったときにはこうやって一緒に食事するのがお決まり。

お昼時、職場の建物内併設されているこのカフェはいつも混む。

だいたい私たちが来る頃には店内がいっぱいで、いつもテラス席に案内されるのだ。

また、安定の一番奥の左端の席だった。



水曜日の昼下がり。陽は煌々としていた。

世間様は月曜日が怠いだなんて言うけれど、

私にとって一番怠いのは水曜日だった。

こんなにもやる気が出なくて、なかだるむ日が他にあるのだろうか。

私は水曜日が嫌いだった。



『冴子、聞いてんの?』


『あ、うん。で、なんだって?』


『全然聞いてないじゃない。だから、うちの店の向かいの雑貨屋の店長、大学生バイトの子と不倫してたらしいよー。』


『へぇ、あの物静かで真面目そうな?』


確かそこの雑貨屋はアンティーク系の商品を取り扱っていたはず。

店長は、30前半くらいの背の高い瘦せ型の男性で、メガネをかけた真面目そうな人だ。お店の雰囲気にあっているなぁといつも思っていた。


『意外すぎて、私もびっくりしちゃったよ』


『ほんと、人ってわからないよねぇ。』


私が浅く笑うと、絵里は呆れた顔をした。


『私には関係ありませんって顔に書いてあるよ。冴子だって、もしかしたらいつか不倫されるかもしれないのに』


『ちょっと、やめてよね。これから幸せになるって人に対して。』


私は、薬指にキラリと光るものを、絵里に見せつけるように左手を頬に当てて、テーブルに肘をついた。


『冗談よ。ごめんごめん。』


『あはは。私たちは大丈夫だよ。』



そうだね、と笑いあった。


ちょうどいいタイミングで店員が食後のコーヒーを運んできたので、私は姿勢を正した。



深く深く黒かったブラックコーヒーは、真っ白いクリームのポーションを一滴垂らしたら、どんどん優しいブラウンになっていく。


優しい優しい色。

それは、コーヒーの中にきちんと存在していることを示していた。たった一滴なのに。


なのに、ガムシロップは何滴垂らしても、その透明な姿をコーヒーに隠してしまう。


探しても探しても、目に見えない、見つけることができない。



絵里の話を流し聞きで、ぼーっとそんなことを考えていた。

ふと目をやったケータイの画面が光る。



”今日、仕事早く切り上げられそうだから、水曜日だけど会えそうだよ。”



絵里はいまなんの話をしているだろう。

指を眺めながら話している。

あぁ、先日替えたばかりのネイルの話だ。

デザインが相当お気に入りらしい。



私のいまのネイルは、10本全て赤一色のシンプルなものだった。

指がケータイ画面に振れるたびに、真っ赤も振れる。

私の赤が振れる。



”待ってるね。”





あぁ、ガムシロップになりたい。


私を、どうか私を隠してほしかった。




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