1話
天災のように突如現れた不幸によって、抵抗する猶予も与えられず不様に生き絶えたハズだ。肉体の損傷は激しく、心身共に土に還り、あの時確かに存在は無になった。
しかし、今現在はどうだろう。自らの体には一つとして異常が感じられない。地面にはしっかりと両足が付き立っており、生きているという信じられない奇跡を囁いているようである。
今、自分は何処にいるのだろうか。さっきまで存在していたはずの恐怖が消え去ってしまったようだ。辺り一面は薄闇に包まれているものの、爽やかな涼風が静かに乱舞するこの場所は、まるで物語の中に迷い込んでしまったような幻想的な感情を産み出してくれる。
「__起床したか人間」
突如、静かだった空間に女の声が亀裂を生む。
声の方向に視線を合わせると、そこには美しく麗しい女神のような人間がいた。いや、もはや人間なのかという疑問が生じる。消えたはずの自分が存在しているように、どうやら世の中は人間の尺度では決して測れないほど不思議に満ち溢れているらしい。
「手短に問う。お前には、誰よりも絶望しながら朽ち果てた自信はあるか?」
「絶望……?」
女はそう言うと、じっくりとこちらを見つめてくる。無邪気に答えを求める無知な子供のような瞳には、飽くなき探求心が隠されているようである。
「だから、強く絶望してその生涯を終えたのかと聞いている」
何故、そんなことを聞くのか。知って一体どうするのか等、こちらが質問してやりたい。しかし、答えないというのも不粋な判断である。この女が神様だとしたら、願いの一つでも叶えてくれるかもしれない。
「あぁ、自分は絶望しながら不様に死んださ。それはもう唐突に、簡単に。
しかし、何故お前はそんなことを聞く? そもそもここは何処だ。どうして死んだはずの自分がここに存在している。人の死に様なんぞ問いただすような趣味の悪いあなた様に知っていることがあるなら、ぜひとも説明して頂きたい」
皮肉を添えて返答し、そして質問し返す。自分が何故生きているのか分からない状態は、とても気持ちが悪いのだ。
「……そうか、やはりそうか。
お前には神の奇跡を与えなければならない。新天地でお前は体を手にし、新しい生活を営むのだ」
女はそういうと、女神のような麗しい微笑みを見せ、そっと目を閉じた。その刹那、自分の体が宙に浮いているような不思議な錯覚を覚えた。多くの疑問を残したまま、どうやら自分は知らない場所へと飛ばされてしまったらしい。