少年時代5
漂う夢の中、私はとあるところに立っていた。
もう高校生になった私は、あの世界を忘れていた。
そんな自分に、懐かしい声が聞こえてきた。
懐かしい声を疑わずに素直になっていく。
「ゆっくり目を開いてごらん……」
兄ちゃんだ、きっと兄ちゃんだ。
子供の時の「アレ」は本当だったのか? 本当に兄ちゃんたちと会えるんだ。
なんでだろう? 僕は10年も兄ちゃんのことを忘れていた。
大きな流れの中に、無言で、なぜなのか理由を知っている者がいる気がした。
そんなことはどうでもいい! それと同時に、兄ちゃんたちと会える時間は貴重なことも思い出す。
喜び勇んで目を開ける。
…… 真っ暗だった。自分の身体も見えない! ぼくはそこに「いる」ことしか分からない。
びっくりして声を出す。
「真っ暗……(マックラクラ)」
自分の声と同時に、心の中からも声が聞こえた。
あれ? 僕はここにいるのに、あれ? ……
自分の身体が縮んでいく、身体と言うより心そのものが小さくなっていく。
僕は、あのときのボクだった。
「そうか、もう少し待って、今、体に入れてあげるから」
兄ちゃんの声がする。もう僕の頭は「にいちゃ」でいっぱい。
「……、に、さん、はい、で目を開けよ!」
準備した。
「はい!」
「にいちゃ、にいちゃ、にいちゃ、にいちゃーん!」
目の前には兄ちゃん達。
だけど僕の声の、すさまじいまでの響き具合、自分はあまりの声の大きさにびっくりしてしまった。
突然、画面が暗くなる。
「あれ? びっくりしちゃったかな? とにかく、精神を集中して。」
「にいちゃ、にいちゃ、シンゾウからこえでた。」
もう私は、興奮状態! 嬉しくて泣いているのが分かった。
枕を濡らす感覚に、「これは夢なんだ」と分かってしまった。
でも、何年ぶりの再会なんだろう! この時間を無駄にしたくない。
一生懸命、兄ちゃんに抱き着き、とにかく泣き続け、全身全霊で体当たりした。
すると、他の兄ちゃんも色々話しかけてくれた。
優しく、肩に手をのせてくれた。
それでも僕の手は、一番大好きだった兄ちゃんを離さない。ズボンを引っ張る。
五歳の僕は、兄ちゃんの半分しかない。
暫くして、さっきの「心臓の声」について兄ちゃんは教えてくれた。
「あれはね、『ホウロ』から声が出たって言うんだよ」
「ホウロ?」
自分はゆっくり顔を上げ、兄ちゃんの顔を見た。
兄ちゃんの顔を見ていると、意味が分からなくともどうでもよくなった。
僕の心であることに変わりはない。
色んな兄ちゃん。
「狩り」に出かける前に、最後に集合したときのように、たくさんの兄ちゃん。
僕は一人一人に伝えたいことがいっぱいあって、混乱してしまう。
「にいちゃ、にいちゃ……」
心の中から涙が溢れてくる。もう言葉にならない。
すると、目の前が段々暗くなってきた、すかさず、兄ちゃんが声をかける。
「今度は七年後、最後だよ!」
耳がキーンと鳴る。なんだか身体が溶けてしまいそうだった。
最初は我慢していたけれど、つい、思わず口から言葉が出た。
「あ、自分が深く沈んでいく…… なんだか、裏側に入ってしまいそう」
その声は現在の自分の声だった。
刹那、兄ちゃんが叫ぶ。
「何? それは困る! その前に……」
精霊界から戻る途中の僕は、真っ暗な中だ。
カツン・ドガ・バギ、身体を殴られた。
しかし、それを初めとして擦り切れてしまいそうだった自分の精神が、どんどん上へ組み上げられていくのを感じていた。
そうして兄ちゃんは、
「次を楽しみにしているぞ、お前の成長をずーっと見てるからな」
「会えなくなったら、会いに来い!」
最後にそう言ってくれた。
目が覚めて、現実に戻ってきた私は、すぐ母に報告した。
「久しぶりに、兄ちゃんの夢を見たんだね」
なにやら母も嬉しそうだった。
…… やっぱり、兄ちゃんたちは存在したのである。