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少年時代4

林をそーっと抜けると、人間の町がある。

僕は家を抜け出して人間の町に来た。

そこで出会ったテースケ、本名は知らないけど、ベランメェだからテースケなんだって。

テースケと出会った僕は、すぐに仲間になった。

子供同士、ケンカしながら仲間になった。


だから、僕は正体を明かした。

自分が「龍」だって。


するとびっくり、彼も「オレも『リュウ』なんだぜ!」

と胸を張って応える。



僕は帰り道、兄ちゃんに不思議に思って聞いてみた。だって「人間龍」は僕だけだと言っていたからだ。

…… 兄ちゃんの口から出た言葉は残酷だった。

テースケは大人になる前に死ぬ運命を持っているという。

だから「龍になる」と信じて一生懸命生きているのだと。


「テースケとテースケと、ずっといっしょいる! ともだち、ともだち」

泣いた。初めての友達、子供の仲間だからだ。

いつも自分は、この世に存在しないはずの「龍」として、兄ちゃんたちと人間の町に来るたびに奇異な目で見られていたからだ。

友達がいなくなるのは嫌だ。



そんな僕に、静かに兄ちゃんは言うのだった。

「だったら、一つ約束だ。絶対、何があってもそいつより長生きするんだぞ…… そしたらそいつを助けてやる」

そう言って呪文を教えてくれた。


―― 君は僕より長生きする 僕は君より長生きする

   どっちが欠けてもダメなんだ! 僕たちは親友だ ――


「ええっ!」僕は迷った。僕の心は「龍の世界に帰る」旅をしているのだ。

人間としての約束は、「自分の因縁を切るためにある」とえらいお坊さんから言われていたのだ。

これ以上の人間としての約束は自分を縛ると思っていた。

でも、僕は兄ちゃんに言われて何となく分かっていたことがある。

「全てを切ったら、何にもなくなる」それはとても寂しい。

どうしたらいいか分からないけど、一つの意見としてお坊さんから聞いた話だった。


何となく思った。

「そんなことしたら、兄ちゃん達にも会えなくなるんじゃないのかな?」直感だった。


すると兄ちゃんは、寂しく笑って言うのだった。

「今は分からないだろうけど、お前が思ったことは本当になっちゃうんだぞ、『兄ちゃんに会えなくなる』って思ったろ」

精霊界は心の世界。

想いが作る世界。

僕たち龍は、人の想いを伝えたり、叶えたりするお手伝いをしている。


僕にとっての精霊界は家族のいる世界だ。

だけど、僕は「人間」でもある。

人としての心は、精霊さんを動かす。


僕はそのとき、ケセラン・パサランのことを思った。

テースケの願いと、僕の人としての願い、それが僕の龍としての初めてのお仕事だった。


僕は決めた、初めての友達のために。

「いいよ、ボクはにいちゃとヤクソクする。テースケよりもながいきする。そしてリュウになってにいちゃを追いかける!」

僕は約束した。兄ちゃんとはきっとさよならだ。



兄ちゃんの胸の中で寝た次の日、僕は目を覚ました。

人間界…… 少し違う。

でも、全てそっくりで違う世界だった。

お母さんも、龍の母親でもないし、人間の母親とも少し違う。

「かあちゃ、にいちゃは、にいちゃは?」

「兄ちゃん? 誰だい? お前は一人っ子だろう?」

「ウソだ! きのうまでイッショいたもん、ぜったいいるもん!」

頑として譲らない僕に、母は悲しい顔をして言うのだった。

「夢を見たんだね。本当はね、お前の兄ちゃんは死んだんだよ。お前が生まれる前にね。」

「ウソだ―!」、自分は自分の声を追いかけるように家を飛び出した。


そうして、現実へと戻ってきた……



人間の世界に戻り、僕は枕が湿っているのを悔しく思った。

もう兄ちゃんには会えないのだろうか?


母も父も仕事へ行き、祖母がご飯を準備して待ってくれているところだった。

「ちょっと待ちなさい!」

祖母のそんな声も聴かずに家を飛び出した。


どこへ行こうとか、どうしたらいいかも分からなかった。

ただ悲しい。

優しかった兄ちゃんを忘れたくない。

夢は忘れてしまうものだと大人が言う。朝の夢は消えてしまうのだそうだ。

「せいれいさん! ぼくのゆめよ、きえないで!」


駄目! 僕はお願いをすんでのところで取り消す。

そうしたら「兄ちゃんとの約束」が全部消えてしまう。

今の僕は、ただの人間だ。兄ちゃんと会えない僕は、ただの人間だ!

僕はどうしたらいいの? ただ泣きたかった。


庭を走り抜け、路地を曲がった。一人の男の子がブロック塀に寄りかかっていた。

…… にいちゃ? そっくりくり!

一目散に飛びついた。


「にいちゃ、にいちゃーん。」

でも、返ってきた応えは違った。

「おいおい、どうしたんだ? 急に泣いて。人違いだろ? オレはお前と初めて会うんだぞ。」

僕は全部事情を話した。

「そうか…… まあ、オレはお前よりも年上だし、兄ちゃんってのもいいな。よし、友達になってくれたら『兄ちゃん』になってやる」

にいちゃそっくりの彼は、いたずらっぽく笑うのだった。

「それにな……」

「??」

「オレも昨日、夢で『龍』だって言われたんだぜ」


僕は兄ちゃんと友達になった。

時たま高熱でうなされ、たまに記憶が消えてしまう僕を、知らないふりをして支えてくれた。

それから、僕の夢は「精霊界」ではなく、「龍人界」と言う世界へ辿り着くようになった。

その世界は、龍になれると信じる人が集う世界と言うことらしい。

友達にいちゃも、にいちゃのにいちゃも、テースケも一緒だ!


現実でテースケと出会うのは、もうちょっと先。


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