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その五
「千雪や、お前、幾つになった」
「十六です、父様」
十六か、と父様は目を細めて笑う。
「お前ももう、立派な姫だな。千雪、この桜が散るころにお前を入内させようと思う」
入内、帝の御元に参ること。
「もちろん、ただの世話役の女御としてではなく、帝の妃としてだ」
「はい」
「千雪?」
「あ」
ぽとり、と流れ落ちたそれを見て、頭が真っ白になる。私は、左大臣家の藤原道長の娘。こうなることは予想出来ていたはず。わかっていて、この日が来るまではと、物の化と過ごしてきたはずなのに。頭では、理解出来ていたのに。
「申し訳ありません、父様。少し……驚いてしまったのです。帝は神に等しいお方。私に、務まるかと」
行きたくない。
離れたくない。
「帝とて、人の子。お前が心を込めて仕えれば、大丈夫だろうて」
逃げられない。これは、この父の娘として生まれた宿命。
「あの……お願いが、ございます。父様」
「なんだ?」
「庭の桜を余所へ移して下さい。それから、私が嫁ぐまでの間、この千雪を清明様の元へ」
そして、入内の日が来た。
ありがとうございます。
次でおしまいです。