その三
「物の化は、自虐趣味でもあるの?」
あれから、庭に物の化からの贈り物を植えさせてから数日。朝と言わず、夜と言わず。物の化が隣にいることが日常となるだけの日数が過ぎた、よく晴れた日。唐突に。それこそ、何の脈絡もなく、呪をかけて下さい、と言われた。呪とは、呪い、というわけで。
「私は陰陽師じゃないわ」
「ええ、存じています。ですが、これは姫君にも簡単に出来る事ですし、姫君も、私を縛っておいた方が何かと安心でしょう?私も、物の化だの桜の化身だのと言い合うのも飽きましたし、ですから、名を付けて頂きたいな、と」
「名前……ああ、なんだ。私はてっきり、呪ってくれと頼まれたのかと」
「その通りですよ。名前は、一番簡単な呪いです。相手の名を知ることにより、その相手を縛ることが出来る。私側の視点ですと、陰陽師に知られてしまうと式神とされて、こき使われてしまったりするんでしょうねえ」
「私がつけて良いの?」
「姫君だからこそ、付けて頂きたいのですよ。そして、私に縛られても良いとお思いになられる日が来たら、私にもどうか姫君の名前を」
「ありえないわ」
「気長に待ちますよ」
ありがとうございました。