序章
中学生時代に書いたお話。手直ししてUPしてみました。ご覧下さりありがとうございます。
「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! この大阿呆者が! お前のその頭は飾りなの? 物の化の分際で何を考えているのよ!」
涙が溢れる。
きっと今の私は、化粧が崩れてすごくみっともない顔になっているはず。
泣いては駄目。
そう思うのに、涙が止まらない。
「ああ、ほら、姫君。姫君が仰りたいことは、十分に理解しておりますから。ですがどうか、泣かないでくださいな。そんなに涙を流しては、せっかくの綺麗な黒曜石の瞳が溶けてしまいますよ?」
「な!お前のせいでしょう!」
「ええ、そうです。私のせいです。ですが、謝罪は致しません」
はい、と差し出された手を勢いよく払いのけ、そのまま今乗っている牛車の奥へと後ずさる。
最悪だ。
顔はぐちゃぐちゃで、姫としての体裁すら取り繕いようがない。
着ている十二単は綺麗なだけで、重く動きづらい。
「消えて! もう二度と、私の前に現れてはいけないわ! 私は……お前が嫌いよ」
嘘。
好き。
愛おしい。
愛おしくてたまらない。
「おや、それは残念です」
涙で視界がかすんでしまう。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
「ですが千雪姫。私は、姫君が愛おしくて仕方ないのです」
どん、と地面が揺れる。
遠くで、怒声が聞こえた。
「あ、あぶな」
私が叫ぶよりも早く、彼は牛車から放り出された。
違う。
突然現れた白銀の大蛇に、牛車から引きずり降ろされたのだ。
「駄目!」
牛の頭ほどもある大蛇が、彼に襲いかかる。
考えるよりも先に、体が動いた。
はしたないとか、そんなものは全て頭の隅に追いやられて、牛車の外へと飛び出す。
開ける視界。
「なりませぬ! 姫君! 誰か、一の姫を! 物の化に操られておるのだ!」
違う!
違う違う違う!
「無礼者! 放さぬか! 私は」
制止の手を振り払おうと暴れて、彼と目が合う。
大好きな、桜の瞳。
微笑まれて、何かを言われた、気がした。
私は従者に捕らわれて、叫ぶだけしかできなくて。彼の、喉元に。陰陽師が放った式神が食いつくその様子を見るだけしか出来ない。
「いや、いや……やめて、いやああああああああああああ!」
ありがとうございました。