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犯罪者

俺は今、自分の部屋に置かれた鏡の前で身だしなみを整えている。


父親譲りの端整な顔立ちと、母から受け継いだ艶のある茶色い髪


こうして自分の顔を見ていると贔屓無しで中々の美形だろう。


何故こんな事をしているかと言うと、父と一緒に領主の住む城に登城することになった。鏡で身だしなみを整えるのは、そのための準備と言う事だ。領主さまに失礼があってはいけないからね。まあもっとも、俺が領主様に会うかどうかは判らない。ただ父に一緒に城へ行くから準備しろと言われただけだから。


しかし城の誰が、俺に用事が有るんだろう。


もしかして数日前にしでかしたアダムファッションの所為なのだろうか。でも十歳ならば前世の世界ではギリギリセーフなのではないのだろうか。こっちの世界ではアウトなのか?


家には法律の本なんて無いから、判断材料が全然足りない。


でもお怒りの両親に、森の中で、2人の少女を助ける為に自分の服を囮にして逃げた所為で、裸になるしかなかったと、多少脚本して説明したから、人道的に罪にならないと思うんだけどね。


俺にしか見えない小人さんの事を、正直に話しても信じて貰えるかも疑わしいし。


もし有罪になったら、ロイドさん許すまじ。


笑われた俺の心の傷も含めて倍返ししてやる。


服も何時もの麻の上下では無く、綿で作られた所謂よそ行きに着替えて後は父の合図を待つだけだ。


小人達は相変わらずベッドの上で、お話ししたり飛び跳ねたりしている。何時も元気で羨ましいよ。


俺の部屋に向って足音が聞こえる。


とうとう俺も犯罪者の仲間入りか…


罪状はワイセツ物陳列罪、懲役何年だろうか、執行猶予は付くのだろうか、お役所勤めの父は勤めていられるのだろうか、親不孝な息子でごめんねパパ。


部屋の扉が開いて父が中に入ってくる。


何時見てもさわやかな人だ。とても三十過ぎには見えん。


「レイ、準備は良いようだね、では行くとしよう。」


「はい、おとうさん。」


ああ、遂にこの部屋ともお別れか、これからはプライベート無しの牢屋が俺の住処か。小人さん達は、フワフワ飛んで俺の後を付いて来る。


自宅を出て僅か五分でお城の門に着いてしまった。


早い、早過ぎる、ああもう逃げ出したい。


父は門の所で、城の衛兵と二言、三言、軽く話しをすると、衛兵は父と俺を城の中に通してくれた。


暗い気持ちで、父と城の兵士に連れられて城の広場から建物と周りを見渡す。外からは壁に囲われて中の様子は判らなかったが、広い庭だ。訓練にも使われているのか。


「でけ――」


「ひろい――」


「プリン――」


「……」


俺の後ろで、小人さん達がはしゃいでいるが、君達マイペースでいいね、こっちはどうなるか不安なのに。


広場を通ってお城の大きな扉の正面玄関からではなく、城の南側に在る小さい扉から中に入る。


やはり俺は犯罪者、誰にも知られない様にコソコソ入るのがお似合いさ。


あっ、なんか悲しくなってきた。


暗く、沈んだ気持ちを更に倍増させるが如く、薄暗い中を階段を登って行く。


三階まで上がると、階段を出て廊下に出る。


暗かった階段とは違い、廊下の壁に取り付けられた窓から、明るい日差しが入ってくる。


だが、俺の気持ちは全然明るくならない。


廊下に出て暫らく父の後に付いて歩くと、入り口の上に執務室と書かれた場所で、父がその部屋へ入って行く。


ついに審判の時がきたのか、心臓の鼓動が高まる。


覚悟を決めて中に入ると、六人の男性が机に座って書類と格闘しており、その中には俺を犯罪者に陥れたロイドの姿もあった。


ロイドは父を見て、その後に俺の姿を見る。その時俺とロイドの視線が重なり、ロイドは口から「ぷっ、葉っぱ」と吹き出す笑いを必死に両手で押さえ、机に蹲りながら、必死に笑いを堪えている。


あのやろー、俺を犯罪者にするだけでなく、更に追い打ちをかけるとはなんて奴だ。


ロイド達より更に奥にあるひと際立派な机に向って父は歩いて行く。そしてそこには四十歳代と見られるこれまた渋いおじさまが、ペンで書類に何かを書いていた。


「伯爵様、ご命令により息子のレイを連れて参りました。」


えっ、今お父さん何て言った。伯爵様だって、この領地のトップじゃん。そこまで事態は深刻だったの。


伯爵は書類を書き上げると、手を休めて顔を上げ、鋭い目つきで俺を睨んできた。


いやぁぁぁ、やめてぇぇぇ、そんな目で俺をみないでぇぇぇ。


「君がレイ君か、話は君の父君から聞いているが、もう一度森での出来事を私に説明してくれないか。」


俺は必死になって説明した。赤い髪の女の子と銀色の髪の女の子の2人組が、森で犬の魔物に襲われていたので割って入ったり、残った二匹の魔物の内の一匹を俺に引きつける事に成功して、その場を離れて、犬の魔物を撒く為に自分の匂いの付いた服を脱ぎながら逃げ続けた事等を、少しだけの嘘をつきながら伯爵に説明した。


そして裸になってしまったので、このままでは恥ずかしいので、気休めで股間に葉っぱを付けて夜の暗闇に紛れて家に帰ろうとした事。そして帰る途中でロイドさんに出会って葉っぱ一枚の俺に対して理由も訊かずに笑われた事、そのせいで周りの人達にも笑われ、命懸けで裸になったのに、ロイドさんに笑われた事、もうひとつおまけにロイドさんに笑われた事を説明した。


こうなったら、お前も道連れじゃあぁぁ。


ロイドさんは、俺の説明を聞いて顔を青くしている。


あれ、今の説明ってそんなに攻撃力あったかな。まあその顔が見れたから満足した。


「そうか、やはり君だったのか、私の娘達を救ってくれたのは、本当に有難う、もし君が魔物を引きつけてくれなかったら、自分達は死んでいたと言っていたよ。」


そう言って机越しに俺の手を両手で握って、さっきまでの鋭い目と違い、優しい若干涙ぐんだ目でお礼を言われてしまった。


あれ、もしかしてお礼を言う為に俺を城に呼んだのか、犯罪者宣告じゃなかったのか………、バンザーイ、バンザーイ、勝訴です。俺生き残りました。あれ、はんざい者のはをばに変えるとばんざい者になるよね、どうでも良いけど、とにかく助かった、首がつながった、バンザーイ。


はっは~~ん、2人の女の子の親が伯爵だと気付いたから、ロイドの奴は顔をあんなに青くしていたのか。今も顔を青くしてお腹を押さえて俯いている。良い気味じゃボケー、俺の心の傷はもっと深いんだよ。


「いえ、人として当たり前のことをしただけです。」


言っててなんだが、俺カッコイイ。


「そうか、君の様な息子を持って彼は幸せだね。」


「いえ、そんな有難う御座います。」


照れくさそうに伯爵に返事を返す父。


やったねパパ、伯爵の好感度アップだね、明日はホームランだ。


「それに引き換えロイド、お前と言う奴は…」


おう、伯爵様怒ってる、いいぞもっとやれ。


呼ばれたロイドは立ち上がり、顔を少し下に向けて相変わらず青い顔してる。


「命懸けで私の娘を救ってくれた恩人に対して笑うとは何事か、罰として給料五ヶ月間二十%カットだ。」


「はい、すいませんでした。」


ふぅ、胸がすっとした……、ん、待てよ、このままじゃ、俺只の笑われ損なだけだよな。それに給料カットは痛いよな。サラリーマンの経験のある俺だからこそ、その重みが判る。


「待って下さい。」


「何かなレイ君。」


「給料カットは流石にロイドさんが可哀想です。」


ロイドが顔を上げて、俺を希望の星を見る様な目で見やがる。感謝しろよ。


「しかし、善行を行った者を、事情を知らなかったとはいえ笑うとは、彼の雇い主として私の気持ちが収まらん。」


「だったら、こうしましょう。彼の僕へのお詫びとして、僕に食事を奢るというのは如何でしょうか。」


「そんな物で良いのかね。それでは……」


「只の食事ではありません。目ん玉が飛び出るほど高い、超高級料理を僕に奢ると言うのはいかがでしょうか。それでこの件は無しにしましょう。」


「ハハハ、それは良い。ロイドお前もそれで良いな。レイ君に感謝しろよ」


「はい、レイ様有難うございました。」


ホントに感謝しろよ。これでロイドの経歴に傷がつかなくて済むし、そして俺の気も済む。そして俺は御馳走も食べれるし、一石三鳥だね。ロイドに対する伯爵の下がった心象は自分で回復してくれ。


「それでだ、私から君にお礼がしたいのだが、何か欲しい物はあるかい。」


おっとまさかの展開、欲しい物か、何にしようかな、ズバリ金…、はダメだな子供らしくないし、物で欲しい物と言ったら……そうだ、あれにしよう。


「ではお言葉に甘えて伯爵様にお願いがあります。僕に魔法の本と、この世界に関する本を数冊下さい。」


「世界に関する本はともかく、君は魔力が沢山あるのかい?。」


「いいえ、僕には強い魔力はありません。僕は将来ハンターになろうと思っています。ハンターは魔物と闘うだけでなく、人とも戦う時も有ると聞いた事があります。その中にもし魔術師がいたらどんな魔法を使うのか知らないより知っていた方が良いと思ったからです。」


なあんちゃって、本当は小人さんが使った死者蘇生の魔法について知りたかっただけなんだよね。


「小さいのに君はちゃんと自分の将来を考えているんだね。よし分かった、君へのお礼は本にしよう。」


「ありがとうございます。」


俺はお辞儀をして伯爵と別れ、父と一緒に執務室を出ると、助けた二人の少女が出口の前で立っていた。

父では無く2人とも俺を見ている。どうやら用があるのは俺の方か。


あれだけ酷い怪我をしていたのに赤い髪の少女には傷一つ見受けられなかった事にまず俺は驚いた。


「こんにちは、怪我大丈夫だった。」


「うん、セシルに魔法で治してもらったから」


「セシルって誰」


「わっわたしです。」


赤い髪の女の子の後ろに隠れながら、自信な下げに右手を上げる銀髪の少女。


「俺はレイ、よろしく」


握手する為に右手を差し出すと、セシルもおどおどしながら右手を出すが、握手する寸前で彼女の右手の動きが止まってしまう。しょうがないので俺の方から進んで握手する。


「ひゃう」


セシルが少し驚いた声を上げながら握手に応えてくれた。


気が弱い子なのかな、まっいいか。


「ええっと君は、」


今度は赤い髪の方に名前を尋ねてみる。


「私はカレンだ、よろしく。」


このこは元気一杯に右手を差し出してくる。


うん、すがすがしい。


「俺はレイだ、よろしく。」


俺も元気に右手を出し握手するが、右手に何故か激痛が走った。


握手すると右手の指の関節か有り得ない方向に曲がっているんですけど。


「ぎゃぁぁぁぁ、なにこれえぇぇぇ」


「ああっ、ごめんなさい。嬉しくて、つい力加減を間違えてしまった。セシル早く治してあげて。」


「はっ、はい」


セシルは俺の右手に自分の右手を近付ける。


「光よ、癒したまえ」


セシルの右手が光り出すと、俺の右手から痛みが消えて、瞬く間に右手が治ってゆく。


うお、魔法だよ。初めて見た。スゲー、


セシルの右手から光が消えると、そっとセシルは右手を俺の右手から離した。


「おわりました。」


俺は自分の右手を見詰めて、ぐーぱー、ぐーぱー、右手を開いたり、閉じたりして、右手の感触を確かめる。


うん、何ともない、治ったみたいだ。


俺が自分の右手を見て、魔法に感心していると、カレンが申し訳なさそうに誤ってきた。


「ごめん、握手してくれる人なんて初めてだったから、凄く嬉しくてつい力が入ってしまって、本当にすまない。」


頭を下げて誤ってきた。握手が初めてって、こいつ友達いないのか。あれ、待てよ、俺も小さい時から疲れてベットに入りっぱなしだったから人間の友達が居ないよ。


「別にわざとじゃ無かったし、謝る必要なんてないよ。」


「痛い思いをさせた私が怖くないのか?」


「いや、ぜんぜん。寧ろ可愛いいと思うが。」


犬の魔物に体中を喰いちぎられた事を思えば、こんなの屁でもねーわ。


「わっ私が可愛いだと」


顔を真っ赤にして俯いてしまった。初心だね。

そして意を決したかの様に顔を上げる


「だったら、わたし、ううん、私達と友達になってくれレイ」


「いいけど。」


「やっぱりダメかって、いいの、本当に、本当にいいの?」


「本当の本当にいいよ。」


「ありがとうレイ、これからよろしく。」


そう言って俺にカレンが抱きついて来た。と同時に俺の身体の骨が折れる音が聞こえる。


カレンが俺から離れると同時に俺は廊下に倒れ込む。


「ああっ、レイごめん、しっかりして」


やった本人が、しっかりしてなんて言うな。と思いながら、


「セシル、助けてくれ。」


俺は友達になったセシルに助けを求めた。


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