安堵した少女
「こ、ここは……!?」
気が付くと、知里は霧の中にいた。
辺り一面、真白に覆われて、右も左も、前も後ろも何も見えない。
一歩踏み出してみても、景色が変わることはない。
彼女はなにを思ったのか、その場で両手を広げ、何回か勢いよく回り始める。
しかしながら、霧は晴れることなく、辺りは相変わらず真白のまま。
「私は一体、どうすれば……」
その場に座り込み、彼女はポツリと呟き、溜息ひとつ。
為す術のない状況に、そこから動くことができなかった。
「うーん、うーん……」
かわいらしい熊のイラストが印刷された布団の中で、一人の少女がうなされている。
「しろい。しろいしろいしろいしろい……」
ずっと同じような言葉を呟き続ける様を見ていると、誰しも彼女が悪夢に侵されているのだと分かることだろう。
「来ないで、こっちに来ないで!」
彼女の悲痛な声が大きくなってきた時だった。
”ジリリリリ……!!“
けたたましい音を立て、布団の横に置かれた時計が鳴り出す。
「ふにゃあぁ!!?」
その音に驚き、布団から飛び起きた少女はすぐさま音の発生源を制圧した。
「び、びっくりしたぁ……」
ハードロック調の胸を押さえながら、少女はもう片方の腕で寝癖の付いた長い髪をいじくる。
と、何かを思い出したかのように新緑のカーテンに近寄ると、その端っこを申し訳無さそうに開いた。その向こうには、いつもと変わらぬ眺めが広がっていた。
「夢、か……」
安堵の溜め息と共に、彼女の口を突いて出た言葉。
寝ていた時の少女とは一変、穏やかな表情を浮かべていた。
授業中、机に書き起こしたものです。
(初出:2011年6月26日、当サイト)