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短編集  作者: 更級優月
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一人暮らし

 一人暮らしを始めて、もうすぐ半年になる。

 最近感じるのは、独り言が増えたということ。

 もともとぼっちってことではないけど、友人はみんなバイトで忙しくて、講義とか学食でしか顔を合わせなくなってしまった。仕方のないことではあるけど、一人暮らし生活が長くなればなるほど、寂しさは大きく膨張していくんだ。

 「ただいま」って言ったって、誰も返事を返してくれる人はいないんだよ。

 実家暮らしだったら、「おかえり」って声を掛けてくれるんだ。たった四文字の、ありきたりな言葉。でも、その一言で、私の心はとってもあったかくなるんだ。だから、ついつい願ってしまう。誰でもいいから、「おかえり」って言ってほしいって。


 今日は生憎の曇り空。風も少し強めの、ちょっとお出かけには向かない日。早起きして身支度を整えてみても、することはいつも一緒で、座布団に座って本を読むだけ。昨年買ったゲーム機は、少し埃を被っていて、友達と共同生活をしていた時以来、電源を入れていない。

「あの頃は、毎日が楽しかったな」

 栞を挟み、本をテーブルに置いて、ぽつり。呟きは、クーラーの効いた部屋に溶けていく。あの、毎日のように徹夜ゲームして遊んで、笑い合った日々には、もう戻れない。わかってはいるけど、さびしくて、切なくて、時々涙が零れることもあるんだ。


 エプロンをつけて、お昼ご飯を作り始めた。

 最近、ようやく一人分の分量が分かってきて、作り過ぎることはなくなったけど、この生活を始めて、つい最近までそれが分からなかった。だから、せっかく作った料理も余らせてしまって、悲しかった。去年はみんなの分を作っていたから、一人分の食事なんてめったに作らなかったから。

 あぁ、またあの頃のことを思い出してしまった。

「最近、ほんと駄目だな、私」

 玉ねぎを刻みながら、私は静かに泣いた。


 今日の昼食は、ハンバーグ。出来は上々。元々料理をするのが好きだったから、味の方も、我ながらいい出来だと思う。炊き立てのご飯をよそって、テレビの電源を入れてみれば、日本を襲った台風の情報が流れていた。

『非常に強い台風○号の影響で、○○県では現在、住人が孤立する事態となっており……』

「大変そう……」

「台風、こっちに来るかな?」

「そしたら、買い物行けなくなっちゃうかも」

「風強くなってきてるし、これから買い物行っちゃったほうがいいよね?」

「……あ、また独り言呟いてた」


 それから、私は急いでハンバーグを食べて、出かける準備をした。雨が降ってきてもいいように、傘を持って、肩下げ鞄には、エコバックも準備した。玄関で靴を履き終えた私は、ちらっと振り返って呟く。

「行ってきます」

 外に出て鍵を閉め、階段を下りた。空は一面灰色で、私は何だか悲しくなった。


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