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短編集  作者: 更級優月
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ありがちな、恋愛小話

 

 『突然のことで申し訳ありません……。

  伝えたいことがあるので、お手数ですが、放課後、校舎裏手の茂みのところに来てください。

                                 あなたを愛する者より』



 ありがちなラブレターの内容。

 だが、それを手にとって読んだ時、俺は心底嬉しかった。

 俺の名は近藤こんどう高峰たかみね。地元の中堅進学校に通う高校一年生だ。

 部活は残念ながら入っていない。だが、運動部に入っている連中より痩せていて、筋肉もそこそこついている方だとは思う。

 背はそんなに高くない160cm。体重も、それなりの51㎏。

 学力的には、たいてい中間で推移している、そんな平凡少年だ。

 なんでも平均的な俺だが、ただ、唯一といっていい程平均的じゃないのが、髪の毛だ。

 まるで女の子のようにサラサラとしていて、しかも色が藍色ときている。

 あ、言っておくが地毛だぞ? 断じて毛染めなどチャラついたことはしていないからな。

 こう見えて、結構真面目なんだぞ? 俺。

 まぁ、それは置いておいて、先程のラブレターの件に戻ろう。

 そいつは俺の下駄箱から、ヒラヒラと床に落下した。

 うん、ありがちなパターンだ。

 一度周りをきょろきょろ見回し、思い切って手にとってみた。

 ピンクの便箋に、ハート型のシールが貼られていた。

 これは、裏面の話。

 表面はというと……


 『私の大好きな、高峰君へ……』


 ただ一文、ど真ん中に可愛らしい達筆で書かれていた。

 それを見た瞬間、世界が反転したような錯覚に襲われ、俺は思わず下駄箱に手を突き、もう片方の手で頭を押さえた。

 これは……夢だ。うん、きっと夢だよ。こんなのが現実にありえるはずが無い。

 もしもあったとしたら、世界の終わりだ。

 いや、待てよ。もし夢なら、頬をつねっても痛くないはず……。

 俺はありがちな方法で、これが夢かどうかを判断することにした。その結果は……

「痛い!」

 とっても痛かった。

 畜生! 頬がジンジンするぞ!

 これは夢じゃない。とすると、世界が終わるときがやってきたのか……!

 でも、その非現実的な考えに、俺は今更ながら起きるはずが無いことを自覚した。

 そして、次のステップを踏み出す。

 それは、この恋文の中身を確認すること。

 あて先は間違いなく俺に対してだ。

 あて先を間違えた可能性は、限りなくゼロに等しい。

 なんせ、この学校に『高峰』という名前の人間は、俺一人しかいないからな!

 だからといって堂々とラブレターを読むわけにはいかない。

 周りの視線が、痛いんだよなぁ。

 俺はその手紙を覆い隠すようにして、中身を確認した。

 中には、可愛らしいピンクの便箋に、これまた可愛らしい字が並んでいたのだった。









 そして、現在に至る。


「はぁ……」

 もう、溜息しか出てこない。

 だって、放課後、学校裏の茂みで待ってるんだぜ? 健全な男子諸君は、きっと最高な展開に違いない。

「キャッホォォォォウ!!!」

 こんな奇声を挙げて、飛び跳ねるかもしれない。

 だが、不健全な俺にとっては、たいして喜べやしない。

 なんせ、暗い過去があるからな。

 手紙を読んだ直後は、口から心臓が飛び出すほど嬉しかった。

 でも、こうして教室にやってきて、俺のマイナス思考が頭を擡げ始めた。

 『どうせ、からかいの手紙だよ』

 『また、いじめられるんじゃないか?』

 『行ったって、どうせブスの小太り女だよ。無駄足になるぜ?』

 流石に最後の一つは、この恋文を書いてくれた某さんには悪い。だが、前二つはそうそう見過ごせない。

 過去にも、このような事件はあった。



 それは、小学生の頃。

 今回と同じように、俺の下駄箱に、可愛らしい便箋が入っていた。

 ご丁寧に、お菓子(焼きたてのクッキー)も添えて。

 俺は大はしゃぎで手紙に書いてある校舎屋上に向かったのだった。

 だが、そこで待ち受けていたのは、手紙を書いた女の子ではなく、ごっつい体格の男子数名。

 実はその手紙、俺をいじめっ子に陥れるための罠だったのだ。

 数名の男子の中で一番筆圧が弱く、字が綺麗な痩せ型の男子が書いたものだったのだ。

 そいつらは、嬉しそうに微笑んでいた俺を見て、ゲラゲラ笑った。

「ばかじゃねぇの? わざわざこんな物につられてやってくるとはよぉ!」「お前も、まだまだガキだったってことだな!」

 ガキはどっちだ! と叫びたくなった。

 でも、叫べない。

 なんせ、相手は学年でも一、二を争うほど力の強い悪ガキなのだ。少しでも抗えば、こてんぱにやられるに違いない。

 俺は両手を握り締め、わなわな震えながら沸きあがってくる怒りを必死に抑えていた。

 そんな俺を見て、悪ガキどもは言葉を続ける。

「おっ? 自分が哀れで泣き始めたか! きゃはは……! これは傑作だ! そうだよな? 泣きたいよな? 楽しみにしていた告白タイムがパーだもんな! ははは……!」

 「ははは……!」

 皆、腹を抱えて大笑い。

 でも、俺は泣いてはいなかった。

 ただ、怒りに震えていただけだ。

 それを、泣いていると勘違いするとは、どういう目をしているんだ。

 視力的に大丈夫なのだろうか?

 俺はそれ以上ここにいると本当にそいつらを殺してしまうだろうと思い、踵を返し、急いで屋上を後にしたのだった。

 背後で、悪ガキ達の高笑いが聞こえてきた。



 そんな事件だ。

 それから数週間ずっと、俺はそれをネタにされ、いじめられた。

 自殺も考えた。

 でも、怖くて出来なかった。

 人間というものが、とても恐ろしくて、三日間、部屋に閉じこもったこともあった。

 だが、それを乗り越えて、過去を払拭して、こうして生きている。

 生きていて良かった。そう思えるときもあった。

 でも、今日。過去の事件を思い出させる物が、俺の下駄箱の中に入っていたのだ。

 危うく自我を失いかけたが、教室にやってきて落ち着きを取り戻すと、先程の過去の事件が鮮明に脳裏によみがえってきた。

 そうして、溜息。

 俺は一体、どうすればいいのだろうか?

 悩む俺をよそに、時間は過ぎ去っていった。


 そして、あっという間に放課後。

 俺は相変わらず教室にとどまって、行くべきか、行かざるべきか悩んでいた。

 他者から言わせてみれば、さっさと行け! というだろう。

 だが、暗い過去を持つ俺にとって、それは「さっさと死ね!」という死の宣告同様の効果を持つ。

 それゆえ、足が……いや、身体が動こうとしない。

 でも、もしこれが偽りの無い本当の恋文なら、名も知らぬ一人の女子が俺がやってくるのを、今か今かと茂みで待っていることだろう。

 そう思うと、彼女に申し訳ないという気持ちが芽生え、身体が無理やり動こうとする。

 しかし、前者がそれを押しとどめる。

 俺は感情に板ばさみをされ、その大きな隔たりに葛藤していた。


 悩むこと、かれこれ二十分。

 もう大半の生徒は帰るか、自分が所属する部活の活動に従事していることだろう。

 だが、俺は違う。

 これから、戦地に赴こうとしているのだ。

 果たして、これが正しい判断なのかは分からない。

 だが、もしこれが本物の恋文だったときの、か弱い一人の女の子を待たせるのは悪いという俺の善心が、マイナス思考をぶち破ってこうして校舎裏に向かっていることには変わりない。

 不本意ながら、とにかく行ってみようという気にはなった。

 そうして、俺は鞄を手に持ち、下駄箱で靴を履き替えて校舎裏に向かった。


 そして、校舎裏。

 校舎裏は森になっていて、たまに熊が出没するから要注意だ。

 先生方も、あまり近寄らないようにと呼びかけていた。

 だから、まったく人気が無い。

 裏を返せば、告白するにはうってつけの場所というわけだ。

 俺は校舎の影に隠れて、それらしき女の子がいるかどうかを確認した。

 そして、見つけた。

 その人物は、ある茂みに隠れるようにして佇んでいた。

 俺は彼女の名を知っている。

 植村うえむら理沙りさ。同じクラスの女子だ。

 女子の中でも長身で、身長は俺くらいだろう。

 長い髪は腰の少し上まであり、体型的には華奢で、胸はまるで男のようにぺたんこだ。

 だが、抜群のプロポーションと細い手、足首。さらにかなりの美形で、それを補っているかのようだった。

 実際、彼女はこの学校で一、二を争うほどの美少女で、クラス外でも人気は高い。

 中には好きすぎて、植村理沙ファンクラブなるものを作ってしまう阿呆が現れる始末。

 それほど、彼女を自分のモノにしようとする男は大勢いた。

 そんな彼女が、今俺の目の前で、茂みに隠れて誰かを待っているのだ。

 改めて、確認しよう。

 今、校舎裏にいるのは、俺と植村の二人だけ。

 しかも、今は放課後。

 普通、放課後にこんなところにやってくるのは誰もいない。

 俺は確信した。

 彼女が待っているのは、この俺だということを。


 すこし、テンションが上がってきた。


 俺は彼女に気づかれないように、足を踏み出そうとした。その時、彼女が辺りを見回し始めたので、俺は反射的に再び校舎裏に隠れた。

 なんとか見つからなかったみたいだ。

 彼女はそれから辺りをぐるりと見回し、そしてポツリと呟いた。

「あ~あ、結局来ないのかな、高峰君。もう、帰ろうかなぁ……」

 両手を後ろで組み、右足をブラブラさせて、悲しそうにしている彼女は、本当にこのまま帰ってしまいそうで。

 ……というか、俺の名前を呼んでたよな? うん、間違いない。俺は結構聴力いいからな。

 って、ヤバイヤバイ! このままここに隠れていたら、植村さんが帰ってしまう!

 男、近藤高峰! 今こそ勇気を振り絞る時だぞ! ここで逃げてしまっては、男としてのプライドを未来永劫失うことになるぞ!

 心の内で自身を鼓舞し、校舎の陰から一歩、足を踏み出した。

 新しい階段を一歩、上るために……。


 校舎の陰から姿を露にした瞬間、植村さんがこちらを見た。

 そして、あっという間に顔を真っ赤に彩り、困ったように俯いてしまった。

 彼女の腰まで届く、絹のようなサラサラとした漆黒の髪が、風によって宙を踊る。

 『美しい……』

 心の中で、思わず呟いていた。


 漸く俺は彼女の元に辿り着いた。

 視線の高さは、ほぼ同じ。

 若干俺が2cmほど高いくらいだ。

 まず、俺が切り出した。

「遅れてごめん。待った?」

 俺の問いかけに、俯きながらフルフルと首を振った。

「だ、大丈夫……」

 か細いソプラノボイスが、俺の鼓膜に届いた。

「そうか。……で、伝えたいことって、何?」

 既に手紙を見ている俺としては、もう何を伝えたいのかは分かりきっていた。でも、確認のために、もう一度。

 植村さんは俯いていた顔を上げた。

 目が、潤っていた。

 唇が、朱を含んだように、紅かった。

 吐息が、艶やかだった。

 そんな植村さんが、意を決したように、口を開いた。

「あ、あのぉ……ずっと好きでしたっ! よ、良ければ……結婚を前提に私と、……つ、つき合ってください!」

 お願いしますという言葉と、彼女が深々と頭を下げたのはほぼ同時だった。

 予想通りの展開になってきた。

 ただ、『結婚を前提に』という単語が飛び出してくるとは、予想外だった。

 一応、確認。

「あのぉ、植村さん? 本当に俺に言っているの? 間違っては……ないよね?」

 頭を垂れながら、植村さんは言った。

「はい。間違いありません」

 はっきりと意志が籠もった、まっすぐな言葉。

 俺は、決断した。

「こんな俺でよければ……。こちらこそよろしくお願いします」

 そう言って、俺も頭を下げた。

 頭を下げて、気がつく。

 植村さんが、泣いている。

「……うぅ…………あ、ありが…………と……」

 何だか労われない気持ちに苛まれながらも、俺は植村さんが泣き止むまでその場を動かなかった。





「大丈夫? 落ち着いた?」

 程よく時間が経ち、俺は植村さんに声を掛けた。

「……うん。ありがと」

 まだ声に元気は無いものの、先程と比べると、落ち着いてきたようだ。ここでこれ以上泣かれると、異性との交友経験が薄い俺にとって、どう接していいのか、どう声を掛ければいいのか、判らなくなってしまう所だった。

 とにかく、彼女が泣き止んでくれたことに感謝をしなければならない。

 と、赤い目をゴシゴシ擦って、俯きがちに言った。

「私、昔は苛められっ子だったんだ」

 声が震えていた。握った小さな拳が、華奢な撫で肩が震えている。

 俺は突然の告白に、驚き息を呑んだ。

 こんなにも可愛らしくて、優しい植村さんが苛められていたことがあったなんて、予想だにしなかった。

 なぜ、彼女は苛められていたのか? 俺は理由を聞こうと口を開きかけたが、植村さんが先に口を開き、先程の続きを話し始めた。

「小学校四年生の頃だったの。それまで私、みんなから苛められてたんだ。みんなよりも勉強ができるから。ただそれだけだった。最初は机の向きを逆にされる事から始まって、段々悪質になっていって……。最終的には殴られたりもしたの。体中に痣を作って帰って、お父さんとお母さんは頭を抱えて学校に相談したけど、収まらなくて……」

 そこまで話し、植村さんは一息吐いた。

 俺は、植村さんの衝撃の過去を聞き、驚きのあまり口をポッカリ開けて、彼女の話を聴いていた。彼女が話を止めたその時も、俺の口は開いたままだった。

 そんな俺をよそに、植村さんは話の続きを話し始めた。

「それから、何度も自殺を考えた。実際に、天井についていたホックにロープを引っ掛けて、輪に首を引っ掛けた事もあったの。……結局、怖くて支えてた椅子を蹴倒すことはできなかったけどね。でも、その時死なないで本当に良かったと思う。だって……」

 そして、ほんのり赤みがかった顔を下に向け、ボソボソっと言った。

「こうして、高峰君に遇えたから……」

 その言葉を聞いた瞬間、何かこそばゆいような、何ともいえない感覚に襲われた。

 なんだか、体中がむずむずする。かといって、我慢できないほどの痒さではない。

 これは、一体なんだ?

 俺、どうかしちゃったのか?

 視線を彼方此方あちこちに巡らせ、挙動不審になりながらも、俺は一つの言葉を紡いだ。

「俺も、植村さんに“好き”って言われて、とても嬉しいよ……」

 きっと、俺の顔は真っ赤な紅葉の様に染まっていたと思う。

 言い終わって、あまりの羞恥心から後悔した。

 でも、植村さんはそうではないようだった。

 俺の様子をさも楽しそうに眺めていた。同時に、その表情には感謝の意が表れていた。

 その姿はまるで、一生懸命努力してお手伝いをする子供を見守る母親のようだった。


 その後も、俺と植村さんはそこにいた。

 何を話すわけでも無く、ただそこに居たかっただけ。

 お互い、こうして何もせずに座っていたいだけ。

 それだけで幸せを得ることができるから……。


 夕陽が綺麗だ。

 もうそろそろ完全下校時間になってしまう。

 仕方なく俺は立ち上がり、植村さんに言った。

「俺、もうそろそろ帰らなくちゃいけないんだ……」

 すると、彼女ははっとしたが、すぐに罰の悪そうな表情を浮かべた。

「ごめんね。私が高峰君を呼んだばっかりに……」

 俯く彼女に、俺は何て声を掛ければ良いのだろうか?

 心の中で呟き、頭の中では必死に最善の選択肢を模索する。

 そうして導き出された答え。それは……

「植村さん、ごめん」

「――っ!!」

 俺は俯く彼女を抱きしめていた。

 これしか、思いつかなかった。

 でも、いいよな……?

「高峰……君? どうして……」

 植村さんは突然のことに驚き、上手く言葉を発せないでいた。

「今はこうさせてくれ」

 彼女の華奢な身体を抱きしめながら、俺はそう答えた。俺の我儘に、植村さんはこくりと頷いてくれた。

 とてもありがたかった。

 暫くそうして抱き合って、離れた。

「また、明日」

 俺が言った。

「うん。また明日」

 植村さんが、笑顔で言った。

 そうして、俺と植村さんはそこから別れた。

 俺は思った。これから始まる新しい日々は、多難なものになるだろうと…。




 あれから、二年が経った。

 俺達三年生は受験シーズンに突入していた。

 毎日が忙しく、時間はあっという間に過ぎ去っていく。

 だが、俺には理沙がいた。

 疲れているときでも、怒っているときも、いつも理沙が隣にいてくれた。

 そのおかげか、元々平凡だった俺の学力は、次第に向上していき、現在では学年でも常に五番以内に入るようになった。

 これも、理沙がいてくれたから、出来たことだ。

 彼女も、俺と同様勉学に励み、つい最近生徒会を引退した。

 生徒会長として頑張っていた彼女の姿は美しく、見るものを虜にした。

 まぁ、俺はほぼ毎日見ることが出来たがな。

 ちなみに、俺は生徒会副会長だった。

 そして、昨年行われた文化祭で、『ベスト・オブ・ザ・カップル』なる称号を俺と植村は手にし、俺と植村の交際は、学校全体が知ることとなり、同じクラスの皆や、他のクラスの友人達は、温かい目で俺達二人を見守ってくれた。

 そうして、俺と植村は、時には喧嘩をし、時には慰めあい、今日を迎えている。

 今の俺と植村があるのは、周りの皆が支えてくれているからかもしれなかった。

 そうして、今日の授業が終わり、放課後。

 机の中の教科書や参考書を鞄にしまいこみ、ふと時計を見る。

 短い針は若干”5”に寄り、長い針は”9”と”10”の間を指していた。

 もうそろそろ五時か……。

 最近、時間が過ぎ去るのが物凄く早い気がする。

 多分、気のせいではないだろう。心が慌てているのだろう。

 何故だか、溜息が出た。

「なぁ~に溜息吐いてんの? そんなんじゃ、入試落ちちゃうよ?」

 いきなり肩を叩かれた。

「うぉっ! ……びっくりさせんなよぉ、理沙」

 心臓の鼓動を早め、声のしたほうを振り返る。そこには、にやにやと、天使のような微笑を浮かべる理沙がいた。

「もう、高峰はチキンなんだからぁ!」

「おれはチキンじゃねぇ! キチンだ!」

「もうどっちでもいいじゃん! それじゃあ、今日からチキンね?」

「何故そうなる……」

「まぁ、いいんじゃない?」

 くだらない会話。でも、これが楽しい。

 これだけで、俺は幸せだった。


 “キーン……コーン……カーン……コーン……”


「あっ」

 いつの間にか、時計は五時半を回っていた。

 もうそろそろ帰らないと、大変なことになる。

「……もう、帰ろうか?」

 俺は理沙に言った。

「うん、そうだね。帰ろうか」

 理沙はそう言って、俺の左手を握った。

 俺は鞄を背負い、夕焼けが綺麗な空を横目で見て、理沙と共に下駄箱に向かった。



恋愛ものを書きたくなって、仕上げたものです。

(初出:2010年10月7日、当サイト)

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