第二十七話:狂気の幕引き、禍源域の膨張
沈んだ空気の底で、エルデが笑っていた。
エルデが術式の中心で両腕を広げた。
「さぁさぁさぁ。最高の瞬間だ!」
狂気の口癖が、禍源域に吸い込まれて増幅される。
黒衣の男が、淡々と告げた。
「……頃合いだ」
次の瞬間、男の姿が“薄れる”。
影がほどけるように、戦場の端へ消えた。
誰も追えない。追う余裕がない。
中心で、エルデが笑った。
「ねぇ、ユウマ。僕は知ってるよ。君が止まらないことも、君が守りたいものも。――全部、全部、知った上で」
エルデの瞳が、ぎらりと光る。
「僕は“世界”を開く」
術式が発動した。
禍源域が、膨れ上がる。
地面が割れ、黒い渦が空へ伸びる。
風が逆巻き、負の波が奔流になる。
そして、中心にいたエルデの身体が――燃えるみたいに崩れ始めた。
「はは、ははははははっ……!」
狂気の笑いは、最後まで綺麗に濁っていた。
知識を掴む前に、知識に焼かれていく。
「もっと、もっと――知りた――」
言葉が途切れ、エルデは消滅した。
だが、終わらない。
エルデが消えても、禍源域は止まらない。
膨張は加速し、渦は“世界”を呑み込もうとしている。
「……止まらない……!」
ユイが青ざめる。結界が、押し潰されかける。
レンが叫ぶ。
「ユウマ! 石だ! 四つ――全部、持ってるな!」
ユウマは頷く。
胸の内で、幻魔石が重く鳴っていた。
ユナがユウマの腕を掴む。
震えているのに、目だけは真っ直ぐ。
「……行くの?」
ユウマは、一瞬だけユナを見た。
抱きしめたい衝動を噛み殺して、抱きしめる。
「戻る。必ず戻る」
言葉は約束というより祈りだった。
そしてユウマは、四つの幻魔石を握り締め――渦へ向けて踏み込む。
膨張する闇が口を開ける。
飲み込まれる直前、ユウマの耳にユナの声が届いた。
「生きて……!」
ユウマは頷いた。
次の瞬間、世界が裏返った。
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