第十二話:親子と、家族の形
コンラートはなんとか生きていた。
だが傷は深い。医務室で息をするたび痛みが走るのが分かる。
ニコラスは膝を床につけたまま動けなかった。
傷が深すぎて、癒しの術がうまく効かない。
「俺が……俺が気づけていれば……」
ツバサは扉の外で聞いていた。
迷って、結局入った。
「気づけてても同じだ」
ニコラスが顔を上げる。目が赤い。
「お前に何が分かる」
ツバサは一歩近づいた。
「分かんねぇよ。分かんねぇけどさ――
“弱いから”って言葉は、俺も腐るほど浴びた」
ニコラスが黙る。
ツバサは自分の刀の柄を握り、続けた。
「俺は孤児だ。親の顔も知らねぇ。
親戚の家で奴隷みたいに使われて、逃げた。
食うために盗んで、殴って……気づいたらゴロツキの頭だった」
ユイが静かに視線を落とす。
その“過去”を裁かない目だ。
「レンに叩きのめされて、何度も挑んで何度も負けて――
それでも折れなかったら、師匠のとこに連れてかれた。
怒鳴られて、殴られて、飯を食わせてもらって……それが家族みたいだった」
ツバサはニコラスを見る。
「お前の親父さんは生きてる。生きてるうちにぶつかれ。
泣くのはあとでいい。今は目ぇ逸らすな」
その夜、ニコラスは父の枕元に座った。
コンラートは目を開け、苦しそうに笑う。
「……泣くな。みっともない」
「泣いてない」
「嘘をつくな。……お前は、いい癒し手になった」
「……俺は、父さんみたいに強くない」
「強さは前に出ることだけじゃない。
お前が後ろで立っているから、前の者が生きて帰れる」
ニコラスは小さく言う。
「……ありがとう。父さん」
コンラートの指が動き、息子の手を握る。弱い。だが確かな温度。
扉の外でツバサは壁に背を預けた。
胸の奥が痛い。羨ましいのか、救われたのか、自分でも分からない。
ユウマが隣に立つ。
「家族って、血だけじゃない。……お前はもう一人じゃない」
ツバサは笑いそうになって、笑わなかった。
「分かってるよ。……分かってるからムカつくんだ」
ユイが小さく言った。
「羨ましいって感情は、悪いものじゃないわ。
……それは、“欲しかった”の証拠だから」
ツバサは返事をしない。
だが、その沈黙は拒絶ではなかった。
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