第十一話:白い戦場の影
吹雪の中、戦場は音が遅れて届く。
刀がぶつかる金属音が、雪に吸われて鈍くなる。
北壁近く――コンラートが盾役のように前へ出て受け、ニコラスが後方で癒しの光を落としている。
相手は、尋常ではなかった。
人の姿。
武器は持たない。
拳だけで兵を吹き飛ばす。
「……ガルド」
ユウマが名を落とすと、男が振り返った。
「人が増えたな」
声は静かだ。だが、戦いに飢えた目。
「強い場所を求めて来た。ここは悪くない」
レンが刀を抜く。雪が刃に乗らない角度で構えた。
ソウマも同じく刀を抜くが、構えがさらに低い。冷えた湖面みたいに動かない。
ツバサが刀を抜く。
荒いが、真っ直ぐだ。過去の荒っぽさが、今は“突破力”になっている。
ユウマは短双剣を抜いた。
リュミエードで強化された刃は、寒さの中でも芯が折れない音を出す。
ガルドが踏み込む。
雪が爆ぜ、風圧が視界を揺らす。
レンが受け流す――だが重い。
刃で受けたのに、腕の骨が軋む。
「……力が、違う」
ツバサが横から斬り込む。
ガルドは拳で刃を弾く。金属音が響き、ツバサの手が痺れた。
「刀を拳で……!」
ソウマが短く言う。
「刃を殺してる。……間合いを奪われるな」
ユイが小さく手を合わせる。
「守りの印――」
白い膜が一瞬だけ張り、ガルドの衝撃が“全部は届かない”。
それだけで、前線が一歩生き延びる。
やがて、ガルドの身体が揺らいだ。
「……本気を出すか」
皮膚が裂けるように盛り上がり、角が生える。
体格が一回り大きくなる。
幻魔人化。
その気配に、ユウマの掌が熱を持つ。
夢の残響が、現実へ引きずり出される。
そして――別の気配が混ざった。
壁の上、吹雪の向こうに影が立っている。
「……いいねぇ。いい、いい、いい……」
エルデ。
狂った歓喜が、雪に溶けて刺さる。
エルデの視線が戦場を舐め、ニコラスで止まった。
「癒し手……邪魔だなぁ。邪魔邪魔邪魔……」
魔術が飛ぶ。速い。狙いは喉。
ニコラスが気づくより早く、コンラートが身体を投げ出した。
盾で受ける――間に合わない。
コンラートは盾ごと魔術を抱え込み、光が爆ぜた。
「父さん!」
ニコラスの叫びが遅れて響く。
ユイが即座に駆け、浄化と止血を同時に落とす。
「……生きて。まだ、終わってない……!」
エルデは舌打ちし、撤退を選ぶ。
「今日は観察だけ。ユウマはまた今度。ふふふ……」
影が吹雪に消えた。
その瞬間、ガルドがニコラスを見て言った。
「お前が弱いからだ。弱いやつがいるせいで、あれも無様に散る」
ニコラスの顔から血の気が引く。
ツバサの中で、何かがぶちりと切れた。
「黙れ」
低い声。
刀の背で雪を払うように、怒りを削る声。
「……黙れって言ってんだよ」
ガルドが初めて、ツバサに興味の目を向けた。
「いい。そういう目は嫌いじゃない」
戦場が、さらに冷えた。
「一旦退くぞ、体制を立て直す」
レンが言う。
「でも、それじゃあ…」
ツバサが怒りに震えながらレンに反発しようとするのを、ソウマが冷静に諭した。
「頭を冷やせ。怒りで冷静な判断ができなくては、勝てるものも勝てなくなる」
実力を否定しない的確な言葉に、ツバサも納得する。
「その小物に気をとられて満足に戦えないのであれば、興が削がれる。
いいだろう、時間をやる。」
ガルドの言葉に、ニコラスとツバサは再び怒りを覚えるが
重症のコンラートを早く安全な場所に連れて行く為、一同はその場を後にする。
吹雪の中、薄れていくはずのガルドの姿が
ツバサの眼にはいつまでもはっきり映っていた。
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