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終末世界で頑張ります  作者: 深蒼 理斗


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第七話 戦士ガルド

リュミエードの朝は、潮の匂いで目が覚める。

 窓の外はもう賑やかで、荷車の軋む音と売り声が混ざって、眠気が落ち着く前に一日が始まっていく。


「今日、武道大会だよな」


 ツバサが起き抜けに言った。声だけやたら元気で、体はまだ寝ている。


「そうだな」レンが短く返す。


「よし。久しぶりに“ちゃんとした相手”とやれそうな気がする」


「それ、フラグみたいに言うなよ」ユウマが笑うと、


「違う違う、そういうのじゃなくてさ。……分かるだろ?」

 ツバサは言いかけて、少しだけ真面目な顔になった。


 ――負けたくない、じゃない。

 強い相手に当たった時だけ、自分がどれだけ空っぽか思い知らされる。

 そういうのを、ツバサは嫌いじゃない。


 会場へ向かう道は、すでに祭りだった。

 串焼きの匂い、油の匂い、甘い菓子の匂い。人の声が多くて、逆に荒さが薄れる。


 その人混みの中で、ロイクとディアナは今日も腕を組んで歩いていた。

 隠す気も、見せつける気もない。ただ、当たり前みたいに。


「……ほんと、普通なんだな」ユウマが小さく言う。


「ここはそういう町」ユナが短く返した。

 昨日より、視線を逸らさない。ユウマの言葉を、逃がさない。


 闘技場の裏手――選手控えの通路は、汗と土と金属の匂いが混ざっていた。

 ロイクが軽く肩を回しながら、声をかけてくる。


「お前ら、観戦だけじゃないよな。誰か出る?」


「俺!」ツバサが即答した。


「いいね」ロイクは笑う。「いい日だ。町が機嫌いい」


 その言葉の途中で、ロイクがふっと顔をしかめた。

 肩口を押さえる。布が赤く滲んでいる。浅い。けど、血は血だ。


「何それ」ディアナの声が少し低くなる。


「準備で相手が焦って――」ロイクが言い訳を始めた瞬間、


「ちょっと、気を付けてよ?」


 ディアナは短く言った。怒鳴らない。けれど、逃げ道もない。


「大丈夫だって。これくらい――」


 ディアナはロイクの襟を掴んで引き寄せた。

 そして、ためらいなく口づける。

 周りの誰かが「おお」と声を漏らし、笑いと拍手が起きる。冷やかしじゃない。“普通”の反応だ。


 ロイクは耳まで赤くして、肩をすくめた。


「……帰ったら飯な」


「帰らなかったら、飯抜き」


「それ、怖いな」


 ディアナはロイクの背を軽く叩いて送り出した。

 説明はない。それで十分だ。


 ツバサが小声で言う。


「……あれ、ズルいだろ。普通に格好いいじゃん」


「羨ましいって言え」ユウマが返すと、


「うるせ。羨ましいよ」ツバサは照れ隠しみたいに笑った。


 呼び出しの鐘が鳴った。

 ツバサの初戦。対戦表の札を見た瞬間、ツバサの口元から笑いが消える。


「……ガルド?」


 読み上げの声が響く。


「次の試合! アシハラの若き英雄!久遠くおんツバサ 対するは、流浪の挑戦者――ガルド!」


 観客席がざわついた。

 期待と警戒が混ざった音。知らない名前なのに、空気が変わる。


 ガルドは、大きかった。

 筋肉が誇張されているわけじゃない。無駄が削れて、残ったものだけがそこにある体。

 目が静かで、火が外に漏れていない。


 リングに上がったツバサは、肩を落として息を整える。

 向かい合った瞬間、ガルドの口元がわずかに上がった。


「……いい」


 声は低い。短い。

 でも、ツバサはそれだけで分かってしまった。


(こいつ、楽しんでる)


 開始の合図。


 ツバサが踏み込む。速い。

 砂の国で覚えた足捌きが、硬い床でも崩れない。拳が伸び、蹴りが走る。


 ガルドは下がらない。

 受ける。ずらす。外す。最小限。

 当てない。けれど、触れさせない。


「っ……!」


 ツバサは攻めているのに、押していない。

 相手の静けさが、こちらの熱を冷ましていく。


 ガルドが、また小さく笑った。


「それでいい。もっと来い」


「言われなくても行くわ!」


 ツバサが距離を詰め直した瞬間、ガルドの拳が一つ沈む。

 腹に入った。深くない。だが、息が抜けて足が止まる。


 ――強い。


 久しぶりに、ツバサの中でそれが“確信”になった。

 そして、相手の顔が変わらないのが腹立たしい。


 観客の歓声が一段上がる。

 ガルドの動きが派手なわけじゃない。けど、見ている側が分かる“差”がある。


 ユウマは、観客席から目を細めた。


(……気配が、変だ)


 ガルドの動きに、見たことのない“癖”が混ざっている。

 人の体のはずなのに、人の範囲に収まっていない。


 胸の奥が、じわっと反応した。

 嫌な反応じゃない。むしろ――引っ張られる。


「ユウマ?」ユナが横を見る。


「あいつ……」


 言葉にできないまま、喉の奥が渇く。

 ユウマは自分の手を握り直した。


 ツバサが、倒れなかった。

 倒れないまま、笑った。


「いいね。こういうの、待ってた」


 ガルドの目が、初めてはっきり熱を帯びる。

 静かな火が、表に出る。


「俺もだ、久しぶりに本気で戦ってみたくなったぞ!」


 次の瞬間。


 ガルドの足元の空気が歪んだ。

 観客の歓声が、ほんの一拍遅れて、ざわめきに変わる。


 皮膚の色が変わる。筋の浮き方が変わる。

 人の形を保ったまま、何かが“別のもの”になっていく。


 頭部から、角が伸びた。


「……え?」


 誰かの声が漏れた。

 それが合図みたいに、会場が一気に崩れる。


「化け物だ!」

「何だあれ!?」

「逃げろ!」


 悲鳴と怒鳴り声が混ざって、人が流れる。席を立つ。押し合う。転ぶ。

 子どもの泣き声が上がり、護衛が叫ぶ。


 ツバサはリングの上で、目を見開いたまま固まった。


「……おい、冗談だろ!」


 ガルドは、笑っていた。

 今度は隠さない。心底、嬉しそうに。


「そうだ。これだ」


 ユウマの胸が、強く鳴る。


(……同じ、だ)


 アルキュオンで感じた“あの気配”。

 正体も分からないのに、身体が覚えている嫌な輪郭。


 レンが立ち上がる。


「行くぞ!」


 ソウマが頷く。


「観客を守る。二次被害が出る」


 ユナが一歩前へ出る。


「ツバサ、離れて!」


 ツバサは、その声でようやく動けた。

 でも、足が一瞬遅れる。


 ガルドが、ツバサへ向けて踏み込む。

 殺す動きじゃない。けれど、当たれば終わる。


 レンが割って入った。


「この間の奴と同種か?!」


 レンの刃がガルドの腕を弾く。

 硬い。金属を叩いたみたいな音がした。


「……わからない。でも、似てる!」ユウマが言いながら、息を吸う。


 ロイクとディアナも、観客席の縁から飛び降りてきた。

 ロイクは肩口の血を気にしていない。ディアナは顔色一つ変えない。


「何だ?!、あれ!」ロイクが吐き捨てる。


「あとで聞く。今は止める!」ディアナが言う。


 リュミエードの英雄たちが集まる。

 誰も状況を分かっていない。分かっていないのに、動きが揃う。


 ――この町の“当たり前”は、戦いでも同じなんだ、とユウマは思った。


 ガルドが笑う。


「いい。いいな。」


 英雄たちの連携が、少しずつガルドを押し返す。

 ロイクが前で受け、ディアナが視線で合図を飛ばし、レンが間を切り、ソウマが死角を埋める。

 ツバサは歯を食いしばって、追いつこうとする。


(……置いていかれる)


 悔しさが胸を掻いた。

 さっきまで“初めての強敵”に興奮していたのに、今はそれどころじゃない。


 ガルドの体が、押され始めた。

 ほんの少し。ほんの少しだけだが、確実に。


 ガルドの目が、さらに明るくなる。


「……いい。押してくる。そうでなくては」


 次の一撃で、ロイクが弾かれかけた。

 足が滑る。観客席に近い。ここで崩れたら、後ろの人が巻き込まれる。


 ユウマの中で、迷いが消えた。


(……やるしかない)


 見せたくない。

 でも、このままでは守れない。


 ユウマは息を吸い、身体の奥へ沈めていたものを引き上げる。

 熱が背骨を走る。視界が少しだけ鋭くなる。


 ユウマの皮膚に、禍人の兆しが走った。


「ユウマ……!」ユナが息を呑む。


 悲鳴が増えた。観客は、ガルドだけじゃなくユウマにも怯える。

 それでも、ユウマは前へ出た。


「ツバサ、下がれ!」


「……っ、分かった!」


 ツバサは悔しそうに舌打ちして退く。

 退きながら、拳を握りつぶしそうな顔をしている。


 ユウマがガルドの正面に立つ。

 ガルドの目が、ユウマに刺さる。


 ――共鳴が、はっきりした。


「ほう?」

 ガルドが笑う。

「貴様、強いな!」


「知るか!」


 ユウマが言い返した瞬間、ガルドが踏み込む。

 ユウマが受ける。骨が鳴る。腕が痺れる。

 痛い。でも、止まらない。


 英雄たちが、さらに連携を厚くする。

 押す。止める。回り込む。逃がさない。


 ガルドが初めて、苛立ちを見せた。

 苛立ちじゃない。――興奮だ。


「最高だ」


 その言葉の直後、会場の隅――人の流れから外れた影が動いた。


 エルデ。

 目が合ったわけじゃない。だが、ユウマは背中が冷えた。


 エルデは、笑っていた。

 自分の“同種”がここにいることに気づいた笑いだ。


 指先が、軽く動く。

 何かが空気を撫でた。


 ガルドの足元の影が膨らむ。煙でも砂でもない、視界を割る“歪み”。


「――っ!」


 レンが叫ぶより早く、ガルドがその歪みに飛び込んだ。

 逃げる動きが速すぎる。追う距離が足りない。


 歪みが閉じる。

 次の瞬間、リングの上には空気だけが残った。


 残されたのは、悲鳴と、転んだ人と、割れた木柵と――

 胸の奥に残る、嫌な共鳴の余韻だった。


 裂け目が閉じた。

 闘技場の熱も悲鳴も、急に遠くなる。残るのは冷たい空気と、砂利を踏む音だけ。


 ガルドは肩を回した。呼吸を整える。

 逃げた感覚はない。邪魔が入った。それだけだった。


「……仕切り直しだな」


 背後で、拍手が鳴った。

 乾いてるのに、やけに弾む。嬉しさが音に漏れている拍手だ。


「――あぁ、あぁ、あぁ……!」


 男の声が、笑いを噛み殺しきれずに震える。


「いい、いい、いい……! こういう“偶然”は嫌いなんですよ、私はねぇ……だって、面倒でしょう? 予定が崩れる。順番が狂う。……なのに!」


 影の縁から、エルデが滑るように出てきた。

 身なりは整っている。立ち姿も上品だ。

 ただ、目だけが落ち着かない。喜びで焦点が揺れている。


「なのに、最高なんですよ……!」


 エルデは両腕を広げた。舞台の幕を上げるみたいに。


「あなたが“混ざった”! 混ざって、跳ねて、あの場が壊れかけた! たまらない……!」


 ガルドは振り向かない。声だけ落とす。


「誰だ」


「名乗る? 名乗りましょう。名乗らないと、あなたは私を“障害物”として処理する」

 エルデは笑いながら言った。

「エルデ。……エルデでいい。肩書きは要らないでしょう? あなた、そういうの嫌いだ」


「逃げ道を作ったのはお前か」


「作りましたとも。作った。作った。作った」

 エルデは指先で空をなぞる。まるで線を引き直すみたいに。

「逃がした? 違う違う。私は“続けさせた”。あそこで終わるなんて、もったいない。もったいないにも程がある……!」


 ガルドは短く息を吐いた。


「続きは勝手にやる」


「勝手に、勝手に、勝手に……!」

 エルデは嬉しそうに頷きすぎて、首が痛くなりそうなくらい頷く。

「ええ、そう。あなたは勝手にやる。誰の許可もいらない。誰の合図もいらない。……だからこそ価値がある!」


 ガルドが初めて、少しだけ目を細める。


「何が言いたい」


「質問。確認。点検。採点。――どれでもいい」

 エルデは急に声を落とす。

「あなた、あの禍人に“反応”したねぇ」


「強かった。それだけだ」


「それだけ?」

 エルデの笑いが一瞬止まる。止まって、次の瞬間に倍になる。

「それだけで角が出る? それだけで目が笑う? それだけで、胸の奥が跳ねる? あなた、自分のことを“鈍い”と思ってるでしょう?」


「知らん」


「知らない。知らない。知らないふり」

 エルデは肩を揺らして笑い、急に真顔に戻る。

「でも身体は正直だ。あなたの身体は、もう“人間の便利な嘘”を信じない」


 ガルドは少し黙る。

 黙った理由が、苛立ちなのか、同意なのかは読めない。


「……お前は何者だ」


「観客ですよ」

 エルデはさらっと言って、次に芝居がかった声に戻る。

「舞台で一番面白いのは、役者が“自分の台本”を破り始める瞬間だ。あなた、破ったでしょう? あの瞬間、破った」


 ガルドは肩を回して、話を切る。


「用があるなら手短に」


「提案」

 エルデは指を一本立てる。

「あなたは強い相手が欲しい。私は、あの禍人が欲しい。――なら、噛み合う」


「噛み合わない」


「噛み合わない? 噛み合わないのは“組む”って言葉が嫌いだから?」

 エルデは畳みかける。

「連携が嫌い? 束縛が嫌い? 指図が嫌い? ――当然だ。あなたはそういう味のする生き物だ」


「黙れ」


「黙れない」

 エルデは即答する。即答なのに嬉しそうだ。

「黙ったら、この面白さが逃げる! 逃げるのはあなたじゃない、私の方だ! だから黙れない!」


 ガルドが、冷えた目でエルデを見る。


「俺は誰とも組まない。強いのを殴って確かめる。それだけだ」


「それがいい!」

 エルデは手を叩いた。

「それが正しい! それが綺麗! それが単純で、だから残酷で――最高!」


 ガルドは北を見た。空気が薄くなる方角。


「北へ行く」


「ノーザリア」

 エルデはその名前を口にした瞬間、声を噛みしめるみたいにゆっくりになる。

「いい……。凍えて、削れて、余計なものが落ちる。弱いのが勝手に消える。強いのだけが残る。あなたの好みだ」


「止める気がないなら、どけ」


「止めない。止めないとも」

 エルデは両腕を広げて、わざと道を塞ぐ位置に立ち――次の瞬間、笑って半歩退いた。

「あなたは止まらない。止められない。止めようとしたら、こちらが壊れる。……だから私は“見送る”」


 ガルドが歩き出す。


「ついてくるな」


「ついていかない」

 エルデは大げさに首を振る。

「私は追いかけない。私は“先回り”する。あなたが走った先に、勝手に席を用意する。――それだけで十分」


 ガルドは振り返らず、低く言う。


「勝手にしろ」


 足音が遠ざかる。

 エルデはその背中に、囁くように投げた。


「また会うよ。あなたが“次”を欲しがる限りねぇ……」


 返事はない。

 エルデは暗がりに残り、笑いを押し殺しきれずに肩を震わせた。


「……ふふ。いい。最高だ。

 勝手に北へ行け。勝手に強くなれ。勝手に壊れろ。

 壊れた瞬間が、一番“使える”んだからねぇ……!」


 闘技場は封鎖された。負傷者の手当て、混乱の鎮静、町の護衛の再配置。

 ロイクは肩口を縛り直し、ディアナは観客席の子どもを抱えて泣き止ませていた。


 ユウマたちは、人気のない通路でロイクとディアナに向き合う。


「今のは何だ」ロイクが言う。「説明しろ、とは言わない。……でも、放っておけない」


 レンが一拍置いた。


「人に紛れる“異質”がいる。今日のは、その一つだ」


「名前は?」ディアナが聞く。


「詳しくは分からないが、俺たちは幻魔人と呼んでいる」レンは嘘はつかない範囲で言う。

「ただ、また来る可能性が高い。町も気をつけろ」


 ロイクが舌打ちした。


「武道大会の日にあんなの、最悪だな」


「最悪でも、起きた」ソウマが淡々と返す。

「次に備えるしかない」


 ディアナはユウマを見る。

 ユウマの変化を、見ていたはずだ。

 でも、今は踏み込まない。


「分かった。こっちでも警戒する」

 ディアナはそれだけ言った。

「……生きて戻って。次に会う時、余計な心配はしたくない」


 ロイクがすぐ隣で肩をすくめる。


「帰ったら飯な?」


 ディアナが睨む。


「今はそれ言うな」


 ユウマは、少しだけ笑った。

 重くならない。こういう温度が、救いになる。


 翌朝、出発の準備を終えた頃。

 レンがロイクを呼び止め、何気ない顔で聞いた。


「遠征の時に、先陣斬ったのはやはりルミナリアとヴァルツェインだったな」


 ロイクは荷を肩に担いだまま、あっさり頷く。


「まあそうだろうな。あそこらへんは我先に手柄を取りたがる。隠す理由もない」


 レンの目が、わずかに細くなる。

 ザラハドでハーリドが言っていた話と、また違う。

 誰かが、意図的に“食い違い”を作っている。


(……書簡は、誰かが狙って出している)


 レンはそれを顔に出さず、短く言った。


「助かった」


「変な顔だぞ」ロイクが言う。


「いつもだ」レンは平然と返した。


 ロイクが笑う。


「なら、気にしない」


 港の外れで、ユウマがレンに尋ねる。


「次、どこへ行く?」


 レンは、少しだけ間を置いて答えた。


「ノーザリア」


「北か」ソウマが言う。


「実はハーリドとロイクに遠征の時の話をしたんだが、どちらも一番手の国の名前が違った

 そして遠征の時に合流地点になぜかノーザリアの英雄だけが来なかった」


 少し間を置きレンが続ける


「ノーザリアは何かを企んでいる可能性がある、突き止めるべきだ」


 ツバサが拳を握った。


「ガルド……」

 悔しそうに笑う。

「初めてだわ。あんなのに“置いてかれた”って思ったの」


 ユウマは、ツバサの横に立つ。

 昨日、自分が決めた“並び方”のまま。


「やりかえさないとな」


「……おう」ツバサは短く頷く。

「次は、絶対に追いつく」


 ユナが言う。


「追いつくなら、まず生き残る。今はそれが一番」


「分かってるって」ツバサは笑う。

 でも、その笑いは昨日より少しだけ硬い。

 だからこそ、前に進む力になる。


 船が出る。潮風が頬を打つ。

 リュミエードの喧騒が遠ざかっていく。


 レンは北を見た。

 ノーザリア。ガルド。書簡。エルデ。

 どれも一本の線にはなっていない。けれど、線になり始めている。


「行くぞ」


 短い言葉に、一同が頷く。

 次の国へ。

次話は【毎日21時30分】更新です。続きが気になったらフォロー/★で応援してもらえると嬉しいです。

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