まさか捕まってると思わなかったから
会話文多めです。念の為のR15です。
誤字報告ありがとうございます、訂正しました。
選定の儀式の前、私は突然激しい頭痛に襲われた。
流れ込んでくる物語。記憶。それらを受け止めながら、私は、この世界が前世でプレイしたゲーム『星の乙女と花待ちの恋』の世界だと思い知った。
『星の乙女と花待ちの恋』略してほしこい。
魔力を持つ人間はほぼ全て属性を持っている。その主属性は変える事は出来ない。主人公はその中でも稀有な無垢なる者として魔法学園にやってくる。
その中で四大属性の男性キャラクターと恋に落ちる。また、皆の好感度を等しく高く上げると、星属性と言うレアな属性を持つ事も出来る。所謂逆ハーエンドってやつだ。
今日は主人公の選定の儀式の日だった。
彼女は四属性にはならなさそう。皆と仲良くしてたし。星か、一歩至らずのノーマルの花属性か。はたまたバッドエンドの魔力封印か。
頭痛で倒れた私はどう言う結果になったかまだ知らないけれど、彼女は私の好きな人ともよく会話をしていた。
彼は隠しキャラの闇属性の攻略対象で、秘密裏に暗殺ギルドに身を置いている。
それをどうこう言うつもりはない。彼の人生に口出しする権利などただのセフレの私には無いからだ。
でも、出来る事なら、あの笑顔で飄々としている彼の必死になった顔を見てみたかったかな。
選定の儀式の後は卒業式だ。私は今年、この学園を卒業する。私は時属性と言うレアな属性だ。その名の通り、時間を多少いじれる。観測出来る。ただ魔力消費が馬鹿みたいに激しいから一人で使うのは自殺行為だ。魔力の高い人間と一緒に使う、そうしなければぶっ倒れる。最悪何処に飛ばされるか分からない。厄介な属性なのだ。
だから卒業する事にした。家に帰って、時魔法とは無縁の生活を送る。彼の事も諦める。
私に人殺しなんて出来そうに無いし、したくない。
彼は好きだけど、彼の自分の命を軽く扱う所は嫌いだった。
だから離れる。きっと主人公と、幸せになってくれると信じ……。
バァンと激しい音がして私は医務室のベッドから飛び起きた。
「レナ!レナ無事なのか!?」
見た事も無い程必死な顔で飛び込んで来たのは、アシュだった。
「え?せ、選定の儀式は?」
「お前が倒れたって聞いてノウノウと儀式なんて見てられるか」
「だって貴方、特別枠だった筈じゃ…」
「あぁ?なりたくてなった訳じゃないし。それよりお前、卒業するって本当か!?」
誰だバラしたのは。末代まで祟るぞ。
「うーん、うん。使えない時属性なんてこれ以上学園に居ても、ねぇ?」
「使えなくはないだろ。俺が居れば」
「うーん、まぁ、ほら、いつまでも一緒には居られないしね?」
この時部屋の温度が下がった気がしたのは私の気のせいではないと思う。
あれ?この人水属性じゃなかったよな?
「…他に男が出来たのか」
「いや、居ないけど」
「居たらその男殺すぞ」
「だから、そう言うの、良くないの。なんで私が恋をした程度でアシュが手を汚さなきゃいけないの?全然納得出来ない」
「程度とか言うな!……レナは俺の女だろ?」
ちょっと照れたのを隠す様に言った彼に、記憶を掘り起こしてみる。
「いや、初耳ですけど」
「はぁ!?何度抱いたと思ってるんだよ!」
「何度彼女面する女って面倒くさいって言われたと思ってるんだよ」
「そ、それは!」
「はい、それは?」
「今までの話で……」
「はぁ」
「何だよその気のない返事!俺だけかよ、特別だって思ってたのは!!」
「私は思ってたけど、実感がわかない。何より私、アシュとの未来とかちょっと想像出来ない」
「何でだよ!俺だってコーヒーくらい淹れられる!」
「え?今、コーヒーなんか関係あった?」
「レナが、寝起きに淹れてもらうコーヒーとか憧れちゃう、とか言うから!練習したし!実家カフェなんだろ?継ぐんだろ?夫も何か出来なきゃお荷物なだけだろ!?」
世にも奇妙な真っ赤な顔をしたアシュに、私はポカンとしてしまう。
私が別れの準備をしている間に、彼はコーヒーを淹れる練習をしていたと言うのだ。
なんて、なんて愛しい。
「結婚、するの?」
「しちゃいけない歳でもないだろ…」
「ギルドは?」
「お前嫌がるからとっくに足洗った。すげー大変だった。後で慰めて。身体で」
「そう言うところよ」
「俺らしかろうよ」
だから最近アシュからコーヒーの匂いがしたのか?なんだ。なーんだ。
私はてっきり主人公とカフェでも行ってるのかと。
「で。そろそろ返事が欲しいんですが。結婚するだろ?」
「悔しいがしよう」
「何で悔しがるんだよ…」
「エミちゃんと仲良くしてたの私根に持ってるもん」
「えー、なーに?嫉妬ー?かわいー」
「滅べ」
「滅んだら泣く癖に」
「ぐっ、タンスに小指ぶつけて泣け」
「地味に呪うな。えー、あいつ?俺なんか平均的に仲良くって言うのかなぁ。みんな仲良し!みたいな態度心底ムカついてたんだよね。手玉に取られてるみたいで」
「え」
「だから最後バックれようって心に誓ってたんだよな。それどころじゃなくなったけど」
「なんで?」
「お前が倒れたからだろうが」
アシュが私の頭を撫で撫でとさすってくる。
「何ともないなら良かった。卒業パーティーどうする?」
「先生に卒業証書だけもらうつもりで居た」
「まるで夜逃げだな」
思わずサッと顔を逸らした。が、それがより失敗だった。
「まさか俺に黙って帰るつもりじゃなかったよなぁレナちゃん?」
「ハッ!そうだ!アシュは来年も学園なんじゃないの?卒論とかやってるの見てないし…」
「お前はどうしても俺と離れたいらしいなぁ。今更離すかっつーの。別に卒業証書なんていらんし!結婚のが大事だ。多分お前は目を離したら逃げるし」
アシュがにっこりと笑って、私の手をにぎにぎしている。怖い。
「うち、そんな繁盛してませんからね」
「大丈夫!俺割と要領良いから」
「ま、丸め込まれてる…」
「闇魔法でカフェ暗くしてプラネタリウムとか有りかな?」
「回転率悪くなりそうだけど、お客さんが少ない時間帯なら良いんじゃない?」
「お前の時魔法で同窓会とかも盛り上がるんじゃないか?」
「魔力がなぁ」
「此処に居る頼りになる未来の夫を何だと思ってる」
「闇属性主席様」
「そうだろ?任せろ、俺は意外と尽くす男だった」
「ふふっ、そうなんだ?楽しみにしとく」
「だから置いて行くなよ…」
深いキスをされて、此処が医務室な事を思い出して背中を叩くと何故か上機嫌に笑っている。
「良いね、儀式。きっと誰も来ないからやりたい放題痛っ!?」
「キスされてる間なら私が時魔法使える事忘れてない?逃げても良いのよ?」
「悪かったです…」
私の元セフレで元暗殺者な未来の旦那様は、意外と可愛い男だったようだ。
余談だが、卒業証書を貰いに行ったら主人公ちゃんに罵倒され、あ、この子転生者だなと思っていたら、アシュが主人公ちゃんを凄い笑顔で貶し返していた。
「みんな仲良しが失敗して魔力封印されたからってうちの奥さんに当たらないでくれる?因みに僕、最初から君の事大嫌いだから。選択肢を誤った自分を呪ってね」
と久しぶりに聞いた外面モードで、本当に何も無かったんだなぁと安心した私、性格悪いかも。
読んでくださってありがとうございます。
どなたかの癖に刺さったら幸いです。