リリーside
「あぁ、神よ! なんということでしょう! あなたには光の魔術があります! 正しく努力すればきっと聖女様になれますよ」
教会の人にそう言われたとき、私はまるで物語みたいってわくわくしたの。
初めて学園に通うことになった時、いろいろ注意事項を説明されて、正直めんどくさいなと思ってた。でも、隣の席の男の子を見たら全部飛んでっちゃった。格好良すぎたんだもん!!
「よろしくお願いします! えーと、」
「ルチアルドだ」
王子様だなんて知らなくて、お友達になろうとしてただけ。だって、男の子って触れば喜ぶし、私みたいに可愛い子が大好きなんでしょ? 婚約者のシシィ様って美人だけどお高く止まってて、絶対男受けしないタイプ! そんな女より私の方がルチアルド様に合うと思う!
今までいろんな男の子を落としてきた方法でいろいろやってみようとしたけど、全部断られたり逃げられたりしちゃった。
男たらしって有名な母さんに、女がいる男を落とすにはどうしたらいい?って聞いたら、女を蹴落とせばいいんだよって笑われた。そっか……その手があった!
⭐︎⭐︎⭐︎
「ルチアルド様ぁ。ルチアルド様にしか相談できないんですけど」
相変わらず、触ろうとするとさらりと避けられてしまうけれど、最初は名前を呼ぶ許可を与えていないとか言っていたルチアルド様もいつのまにか許してくれるようになった。
「私、さっきシシィ様に押されてぇ」
「は?」
シシィ様は空気を読んでくれたのか、私がルチアルド様に好意を抱いてから、ルチアルド様の近くからいなくなった。せっかくだからと他にも悪口を吹き込む。ついでに、他の子にされたこともシシィ様のせいにしておこう。
「シシィ様、ルチアルド様の前じゃいい子ぶってるかもしれないけど、私にいろいろ意地悪してくるんです」
目を丸くしたルチアルド様は、誰もいないルチアルド様の隣の空間に視線を向けて、首を傾げた。変なの。でも、変なことしちゃうくらいびっくりしたってことは、私の言うことを信じてくれたって意味かな?
「……前も言ったが、とりあえずシシィはその名で呼ぶことを許してないはずだ。そうだろう?」
誰もいない空間を見たルチアルド様がそう言うと、微笑んだ。
「え、でもぉ」
ルチアルド様の微笑みを見た私がそう言葉を続けると、キッと睨みつけられた。
「ふ、不敬だぞ!? 上位の者が話している時に言葉を重ねるとは! そもそもシシィにあらぬ罪を着せようとしている時点で許されざる行為というのに……」
ブツブツと何か言っているルチアルド様は、なぜか何もいない空間を見て笑顔を浮かべて席に戻っていった。
……でも、今までで一番話せたし、この作戦いいかも。たまには役立つじゃん、母さんも。
そう思って私は、ルチアルド様しかいないタイミングでシシィ様のことを悪く言うことにした。
⭐︎⭐︎⭐︎
前よりも会話はできるようになってきて、明日こそ、と思ったら、王様から呼び出された。やっぱりルチアルド様も私のこと、気に入ってくれてたんだってワクワクしながらお気に入りの一着しかないドレスを着て、お城に向かったの。このドレス、ルチアルド様の瞳の色なの。偶然だけど運命だよねー! あーあ、シシィ様みたいに高位貴族に産まれたら何着もドレスを持てたのに。でも、前に教会の人が言ってたの。聖女になれば、王族との結婚も夢じゃないって。光の魔術を持った神に選ばれた私なんだから、聖女になるのも遠くないこと。もしかしたら、今日聖女認定されてしまうのかも!
わくわくしながらお城に向かった。普段私のことなんてほったらかしの父さんと母さんもなんだかんだ理由をつけて着いてきた。娘の晴れ姿、見たいよね。
「リリーを国の光の魔術師として育成することが正式に決定した。皆のもの、これは喜ばしいことだ」
よくわかんないけど、拍手されて私は嬉しくなってルチアルド様を探した。隣に相変わらずシシィ様はいなくて、やっぱり私は聖女になってルチアルド様のお嫁さんになるんだって思ったら、未来がキラキラして見えた。
「そのために、国一番の魔術師フィチルオーネの下で学んでもらうこととする」
たくさんの人に拍手されて、拝命書ってやつを貰いにいった私は、思わず王様に尋ねた。
「私、聖女に認定してもらって、ルチアルド様と結婚できますか?」
「……」
そう言った瞬間、王様はすごく冷たい目になった。
「あの子、王の許可もなく発言を!」
周りの人のそんな声で、あって思った。ルチアルド様が何度も上の者の許可を得てから発言をって言ってた気がする。学園でも習った気がする。
「……これの教育を担ったのは?」
王様がそう言って会場に視線を向けると、私に一番優しくしてくれた教会のおばさんが一歩前に出た。
「……マイスター男爵夫人。申し開きはあるか?」
「いえ、ございません。誠に申し訳ございません」
王様にそう言われて、教会のおばさんは頭を下げた。
「教育も上手くできないのなら、しばらく静養せよ」
よくわからなくて首を傾げていたら、父さんと母さんが顔色を悪くして私の元に駆け寄り、頭を押さえつけてきた。
「申し訳ございません、申し訳ございません、申し訳ございません」
頭が痛くて顔を顰めて横を睨むと、父さんも母さんも床に跪いて謝罪を繰り返していた。
「え?」
「リリーも、早く謝れ!」
小声で父さんにそう言われて、よくわからないけど私も謝った。
「申し訳ございません」
そうしてしばらくすると、目の前に誰かの靴が見えた。
顔を少し上げるとルチアルド様で、私は嬉しくて声を出そうとしたら、また父さんと母さんに押さえつけられた。
「申し訳ございません」
「こんな娘を養育したからには、どんな両親かと思っていたが、貴賤をしっかりと弁えた両親ではないか」
「発言をお許しいただけますか?」
「許そう」
「我々の命など無意味かもしれませんが、娘をお助けください」
震えながらそう言った父さんと母さん。そういえば、貴族のいる学校に通うことになったら、逆らうなと何度も言われたことを思い出した。めんどくさいなと聞き流していたが、もしかしてそれが貴賤について語っている言葉としたら……?
「お貴族様は我々のことなんて道端のゴミのようにしか思ってないんだよ、リリー。だから、決して逆らってはいけないよ?」
「リリー、平民の男とは好きに遊べばいいけど、貴族の男だけはやめておきな。殺されるからね」
「貴賤を弁えた、我々に害意の持たない我々の民のことは大切だと思うよ」
そう笑ったルチアルド様は、冷たい目で私を見ながら言った。
「お前はなぜ、僕に言い寄った? シシィを貶めようとした?」
ルチアルド様の言葉に、息を呑んだ両親は一瞬で顔が真っ青になった。
「え、あの、かっこよくて、その、物語みたいに愛してもらえるかもって……私、かわいいって言われるし」
そう言った瞬間、ルチアルド様は鼻で笑った。
「こんなにも美しいシシィが婚約者としているのに? なんでわざわざ汚らしいお前に走ると思ったのだ?」
その言葉を受けて、ドレスを見てみれば、周りの人たちよりも汚れて見えた。肌も手も何もかも手入れされた貴族とは違う。貴賤ってそういうことなんだと思ったら、ルチアルド様は目を細めて付け加えた。
「もしもお前にシシィのような美しさと頭の良さ、そして性格の良さがあったのなら、例えどんな汚らしい格好をしていようと惚れただろうな」
その言葉は、私のプライドを打ち砕くには効果が抜群だった。
「お呼びですかな? 国王陛下」
異臭を放ち、近寄ってきた汚らしい老人は、ひどく場違いだった。でも、私も同じかもしれない。そう思っていると、ルチアルド様が嬉しそうに笑った。
「フィチルオーネ。君の弟子だ。光の魔術の使い手だよ」
「ほぅ、興味深い。いくぞ。ここは我々には不釣り合いな場だからな」
そう言って、私は老人に引きずられていった。悲しそうに私を見送る両親は、そういえば教会が私を認めた時も、教会には渡さないと戦っていた。私に無関心だと思っていたのは、私が学園に通うための費用を稼ぐのに必死だったからだ。あぁ、愛されていた。
⭐︎⭐︎⭐︎
「リリー、違う!」
とても厳しく、不潔ではあったが、師匠は思ったよりまともな人間だった。
「私も貴族令嬢みたいに綺麗だったら、ルチアルド様のお嫁さんになれたのかなぁ」
私がそうこぼした時、横にいた兄弟子が吹き出した。
「え、何!?」
「平民って、何も知らないんだな? 殿下がエリザベート様に惚れたきっかけは、誘拐されて孤児院に捨てられて育てられていたエリザベート様が、お忍びで街に出ていた殿下が転んだところを助けたところから始まるんだよ」
あぁ、見た目だけじゃなかった。あの教会のおばさんの正しく努力すれば聖女になれるって言葉は、きっと中身を磨くっていう意味だったんだ。
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