地味子の歌
ドラムの音があたり一帯に響き始める。
ドン、タッ、ドン、タッ、ドン、タッ
(さぁ私たちの最後の伝説をはじめよう)
高校三年、私にとって最後の文化祭真っただ中、会場である体育館、大勢の生徒たちの前で私はマイクを握る。
そして
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4月、入学して少しして親睦会をしようという陽キャ君、溝口真の呼びかけでクラスの大半で駅近くのファミレスに乗り込んだ。
この提案を聞いた私、青山咲は当然、
(え?行きたくないんですけど?)
などと思っていたものの場の空気と行かずに帰ってしまった場合の明日からのことを考えるると、やむなく同行することに相成ったわけである。
ファミレスの隅に陣取り、コーラを飲み適当に近くの人と交流をしながら、あぁ今晩のご飯何かな?早く帰って夕飯食べたいな、昨日の読みかけの漫画早く読みたいな~などぽわぽわと考えていると不意に隣の席の子が席を立った。
「ごめんね!ほかの子とも話してみたいから!」
そういって去っていく女子の姿を目で追うとなにやら溝口君の近くの席に移動していった。
(あの子も溝口君目当てなわけね。。)
はぁ、とため息を吐く。溝口君は入学してすぐにその容姿から学校中で話題になった男の子である。とにかく格好がよく、身長も高い、挙句にキラキラした雰囲気で誰にでも気さくに声をかけてくれる。まさに王子様を地で行く男、溝口。
ただ私はどうもあの男が胡散臭く感じてしまい苦手だったりする。ぼんやりとコーラを飲み終えると何か新しい飲み物でも飲もうとドリンクバーに向かった。
「あれ?青山さん?」
「沖田さん、、」
沖田恵美がコップを持ってこっちに歩いてきた。
「青山さんだよね?たしかまだ話したことなかったと思うけどこれから一年よろしくね。」
「うん、こちらこそ~」
ドリンクバーに向かい私は次に何を飲むかで悩みながら軽く流した。どうせもうほとんど話すこともないだろうなと思ったからだ。
この子、沖田恵美さんは男子に結構人気がある。背は少し高く、世にいうところのモデルのような体型、くりくりした目、髪は美しいセミロングに切りそろえられておりどこか清楚な雰囲気を醸し出している。それに引き換え私はというと地味な見た目から入学してすぐにカースト最下位を爆走中である。
(うむ、決めた!)
コーラを入れ、それにプラスでメロンソーダを注ぐ。究極のミックスの完成である。
満足気に究極のミックスを完成させたところで何やら視線を感じるので顔を上げると沖田さんがドン引きしていた。
「え?それ飲むの?」
「もちろん?」
「そ、そうなんだ、おいしいの?」
その問いにちょっと得意げに答えた。
「おためしあれ?」
「こ、こんど機会があれば、、ね」
沖田さんは渋い顔をしながらそう答えた。
ふむ、このおいしさを共有できないとは悲しいが、まぁ仕方ないか。
「じゃあね~」
そういってさっさと咲は椅子に戻るがどうしたことか後ろから沖田さんがついてきている気がする。
(こういう時は振り返らずに華麗にスルーするに限るよね!)
などと心の中でつぶやいた咲はそそくさと椅子に座った。するとやはりついてきていた沖田さんが空いていた席に座ってしまった。なぬ?
「あのぅ、まだなにかおありで?」
「ううん、ちょっと話してみたいなと思ってさ。迷惑だった?」
「いやそんなことはないざますが。」
「青山さんっていつもイヤホンで音楽聞いてるよね!何聞いてるの?」
「ん?あぁ、ブルーマスってバンドの曲ですよ。マイナーなんですけど好きでよく聞いたりしてるのさ~」
「あ!知ってる結構いい曲多いよね!私ギターで弾いたりするんだよ!」
ほー、、やるじゃないか沖田恵美。もっとインスタ映えとかしたものが好きなんだと思ってたけど人を見かけによらないな。
それからの親睦会の間、沖田さんと好きなバンドの話で意外に盛り上がり、気づくとそろそろ解散という時になっていた。
「ね!ちょっとこれからカラオケ行かない?せっかくだしブルーマスの曲歌おうよ!」
テンションが上がったのか結構前のめりで沖田さんが提案してきた。かくいう咲もテンションが上がっていたのでいつもなら断るところ、カラオケに直行してしまったのであった。
二人でカラオケボックスに入り込み曲を何曲か入れる。
「最初は私が歌うね!」
「お~!がんばれ~」
軽く応援しカラオケボックスの中に設置してあったマラカスを適当に振りながら自分も歌うために曲を入れていると沖田の曲が終わった。
「沖田さん歌うまいんだね~」
「そんなことないよ!つぎ咲ちゃんね!」
「OK~」
曲が流れ始める。マイクを持ち歌い始める。咲はもともと歌が好きで実は趣味で一人カラオケにはまっていたのだが誰かときたことがなかったのでどんな反応が返ってくるかわからず不安に思い沖田をちらりと見た。
沖田の動きが止まっていた。微動だにしない。
(ちょっと下手すぎたのかな)
などと思い若干落ち込みながら歌を終える。
沖田は歌が終わるとようやくハッと気づいたかのように動き出し、拍手をしてから少し間を開けて意を決したように言葉を発した。
「咲ちゃん」
「なに?」
「私と一緒にバンド組まない?」
「は?」
「だ・か・ら・バンド!」
「嫌ですけど」
これが私たちの始まりだった。