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怪しい芝居の幕開け

荒れ地を越えると、竹村真一たちはついに音の発生源を見つけた。

それは、芝居衣装を身にまとった奇妙な連中の集団だった。


彼らの顔には分厚い油彩が塗られ、濃い眉毛や不気味な笑顔が描かれており、遠くから見るとまるで歪んだ人形のようだった。彼らは鮮やかな芝居衣装を着て小道具を手にし、輪になって古びた芝居小屋を囲みながら芝居をしていた。


芝居小屋の中央には、痩せた長身の男が立っていた。その顔には「じょう」の化粧が施され、高く突き出た鼻梁と深く落ち込んだ眼窩が特徴的で、その目は冷たく空虚だった。彼は古びた扇子を手に持ち、その扇子には血に染まった山水画が描かれていた。


「ジャーン、ジャジャーン……」

彼の低く掠れた声が楽器の音に合わせて響き、不明瞭な歌詞を歌い上げていた。その旋律には、抗い難い何かが含まれていた。


竹村真一は遠くからその光景を見つめ、眉を寄せた。

「こいつら……生きてる人間じゃないな。」


「当然だ。」

村長の老人は冷笑を浮かべた。

「あいつらは死んだ者に聞かせるために芝居をするんだ。」


「どういうことだ?」

竹村真一は冷たい声で尋ねた。


村長の老人はキセルをくわえ、冷ややかな目で遠くを見ながら答えた。

「ここらの芝居小屋は、九幽の地の古いしきたりさ。どこかに現れては一芝居を打つ。だが、その芝居は人間に見せるものじゃない。未だ成仏できない魂たちに聞かせるんだよ。」


「魂を呼び寄せるってことか?」

竹村真一は鋭い目つきで老人を睨む。


「その通り。」

村長の老人は淡々と答える。

「あいつらの芝居は、死んだ魂を呼び起こして舞台の下に引き寄せる。そして最後に……その魂を喰らうんだ。」


「魂を喰う?」

ゆいは怯えた様子で口を押さえ、震える声で尋ねた。

「そ、それじゃあ……生きてる人間が聞いたらどうなるの?」


「生きてる人間?」

村長の老人は少女を一瞥し、静かに言った。

らの一部になるだけだ。」


ゆいの顔が真っ青になり、竹村真一の腕をぎゅっと掴んだ。

「お兄さん、もう近づくのはやめようよ……」


竹村真一はじっと芝居をする集団を見据えながら、冷たい声で返した。

「だが、あいつらがここで芝居をしている理由があるはずだ。ただ遊んでいるわけじゃない。」


「ふふふ……」

村脳は薄暗い笑みを浮かべながら、キセルを手で軽く叩いて灰を落とした。

「もちろん理由があるさ。あいつらは何かを待っているんだよ。たとえば、迷える魂だったり……あるいは、お前のような奴だったりな。」


竹村真一の目が細まり、鋭い光を帯びた。

「俺を待っているって言いたいのか?」


「その可能性もなくはない。」

村脳は肩をすくめて笑った。

「九幽の地のルールなんて、そんなものだ。お前の運命が特別なだけかもしれない。」


竹村真一はしばらく黙っていたが、やがて血刀をさらに強く握りしめた。

「いいだろう。確かめてやる。」


ゆいは必死に止めようとした。

「お兄さん、ダメだよ! 行っちゃダメ! あんなの……!」


しかし、竹村真一はゆいの手をそっと振り解き、穏やかながらも断固とした声で言った。

「お前はここで待っていろ。俺が片付けてくる。」


彼の目には恐怖も迷いもなかった。ただ冷たい決意だけが宿っていた。


村脳はその様子を見て、再び不気味な笑みを浮かべた。

「ま、せいぜい気をつけるんだな。芝居の幕が降りる前に戻れるといいが……」


竹村真一は返事をせず、一人で芝居小屋へと向かっていった。



近づくにつれ、音楽と歌声はますますはっきりと聞こえるようになった。その旋律は奇妙な力を持ち、まるで人間の心を引き寄せる魔法のようだった。


舞台の周囲には、今にも崩れそうな木製の椅子がいくつも並んでおり、その椅子には人影が座っている――いや、よく見るとそれは人間ではなかった。


彼らは全員、死人だった。骸骨のような体に古びた衣服をまとい、空虚な眼窩を舞台に向けてじっと動かず座っている。その姿はまるで、芝居を観るためだけにそこに留まっているかのようだった。


竹村真一は足を止め、その異様な光景を冷たい目で見つめた。

「死者の観客……か。」


舞台の上では、先ほど見た長身の男が歌を続けていた。その声は耳障りでありながら、不思議なほど人を惹きつけるものがあった。舞台の周りを囲む芝居一座の他の者たちは、異様な動きで踊り、仮面のような表情で観客を煽っている。


竹村真一がさらに一歩踏み出すと、その瞬間、長身の男が歌を止めた。観客も動きを止め、全ての目――いや、骸骨の空洞のような眼窩が一斉に彼の方を向いた。


「おや、珍しいお客さんだ。」

舞台の中央に立つ長身の男が、声を低く響かせて言った。その声には冷たさと、何か底知れない悪意が混ざっていた。

「君は、生きたままここに来たのかい?」


竹村真一はその声にも怯むことなく、冷静に返した。

「お前たちが何を企んでいようと関係ない。だが、邪魔をするなら容赦しない。」


長身の男は薄く笑い、古びた扇子を開いて見せた。その扇子に描かれた血塗れの山水画が不気味に輝き、まるでその中に何かが蠢いているようだった。

「おやおや、怖いねぇ。でも私たちも暇ではないんだ。せっかく来てくれたんだ、特別に君のためにもう一芝居、打つとしようか。」


すると、芝居一座の全員が一斉に動き出した。彼らは異様な踊りを始め、楽器の音が再び響き渡った。


竹村真一は血刀を構え、一瞬も気を抜かず、周囲を警戒した。

「来るなら来い……俺はどんな芝居でも斬り捨ててやる。」


長身の男は笑みを深め、その笑い声が舞台全体に響き渡る。

「いいだろう……それなら、君にふさわしい役を演じてもらうとしよう。」


芝居一座の頭取は手にした扇子を軽くひらりと振った。油灯の炎が瞬時に暗くなり、芝居の舞台全体が不気味な雰囲気に包まれる。


「皆様方……」芝居一座の頭取の声は低く掠れていて、まるで深淵から響いてくるかのようだ。「本日の芝居は《命の供物》と申します。一人の侍が運命に迫られ、最期の決断を下す物語でございます。」


「命の供物、だと?」竹村真一は冷たく鼻で笑い、血刀で床に一線を描いた。「俺を生贄にするつもりか。面白いじゃねえか。」


芝居の頭取は彼の嘲笑に反応せず、代わりに幽霊のような穢れの存在を振り返った。「主役の客人はもうお席につかれた。これより芝居の幕を開けるといたしましょう――あなた様、この運命の戯曲をどうぞお楽しみくださいませ。」


穢れの存在は一言も発さず、静かに椅子の後ろに立っている。その手にした提灯が揺らめき、青い火の光が面に刻まれた呪文のような文様を照らす。文様は不気味に蠢き、低く何かの呪詛を囁いているかのようだった。


芝居の頭取は舞台に立ちながら、ゆっくりと口を開いた。「この芝居に台詞は不要、筋書きもいらない。ただひとつの問いがある――あなたは運命に己を捧げますか?」


「ふざけるな!」竹村真一は怒声をあげ、血刀を勢いよく持ち上げた。「俺はそんな芝居、信じるわけねえ!」


その言葉が終わるや否や、周囲の不気味な風が急激に強まる。椅子に座っていたぼんやりとした影たちはゆっくりと立ち上がり、その姿が次第にはっきりとしていく。まるで今にも彼を襲いかかるかのように。


それでも芝居の頭取は口元を歪めて笑みを浮かべ、得意げな調子で言う。「信じるかどうかは関係ない。この芝居はもう始まっているのだ。捧げるか、喰われるか――その選択が芝居の結末を決める。」


「俺を脅してるのか?」竹村真一は血刀を握り直し、冷ややかな目で睨みつけた。「いいぜ、まずお前を斬って、その後その“観客”どもも片付けてやる!」


そう言い放つと、足元を蹴り、血刀を芝居の頭取に向けて振り下ろした。


「キィィィン――!」


刀身が下りる刹那、背後から幽かに青白い光が迫り、刀の進路を遮った。


竹村真一が振り返ると、その瞳は驚愕に見開かれる――幽霊のような穢れが、いつの間にか彼の背後に立っていたのだ。提灯の青い炎は幽かに揺れ、刺すような冷たさを漂わせている。


「主客が揃った以上、主役は舞台を降りることを許されない。」芝居の頭取は冷たく言い放った。「この芝居、あなたには最後まで演じていただく。」


竹村真一は血刀を握り締め、薄ら笑いを浮かべた。「いいぜ、それなら俺が演じるのは――斬り合いの芝居だ!」


そう言うなり、彼は力を込め、血刀から微かに紅い光を放ち、目の前の幽霊のような穢れに向かって突進した。

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