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奇妙な女

青い炎が濃霧の中で明滅を繰り返し、まるで何か不気味な召喚のようだった。 竹村真一は傷だらけの体を引きずりながら歩き、血刀を地面に引きずっていた。刀が地面を擦る音は耳障りで、彼の冷たいながらも決意に満ちた目がその緊張感を増幅させる。後ろには、ゆいが小さな体を震わせながら、真一の背中にぴったりと寄り添っていた。その顔は蒼白で、恐怖を隠しきれない目がその心情を物語っていた。


彼らの隣では、村脳が片足を引きずりながらついてきていた。一本の煙管を杖代わりにしながら口にくわえた煙草を吸い、不機嫌そうな顔を浮かべている。

「坊主、自分がどんな道を進んでいるかわかってるのか?」


竹村真一は目もくれず、冷たく鼻を鳴らした。「じじい、お前が俺の行く道を見てみたいって言ったんだろ?今さらついてくるのは、俺が死ぬのを早く見たいだけか?」


村脳は口元を歪め、不気味に笑った。その口から見えた黄ばんだ歯が、不気味さを増幅させていた。「へっへっ、お前が本当に死んじまったら、俺も楽になるんだがな。残念ながら、坊主、お前にはしぶとい生命の気がまとわりついてる。簡単には死なねえよ。」


「余計な口出しをするな。」真一は冷たく言い放ち、一歩も足を止めなかった。


青い炎の光が次第にはっきりとし、周囲の霧も薄くなってきた。やがて、荒れ果てた村が彼らの視界に現れた。

小屋の壁は剥げ落ち、腐食していた。戸板は歪み、今にも外れそうにぶら下がっており、破れかけたお札が風に揺られてかすかに音を立てている。さらに不気味なのは、小屋の周囲に干からびた白骨が散乱していることだった。それらは人間の頭蓋骨のようなものもあれば、何か異形の生物の四肢のようなものも混じっており、長い年月を経て灰色の埃をまとっていた。


「ここ、どうもおかしいな。」竹村真一は足を止め、血刀を握り直しながら周囲を冷たく見渡した。


「お兄ちゃん……私たち、ここに入るのやめようよ……」ゆいは真一の後ろに隠れながら、小さな声で言った。「怖すぎるよ、ここ……」


「何が怖いんだ?」真一は冷笑しながら答えた。「こういう場所ほど、使える物が隠れてるもんだ。」


村脳は一歩後ろで煙管をくわえ、面白そうな目で眺めながら言った。「坊主、度胸はあるな。ただし忠告してやる。この場所は、『何かが隠れている』どころじゃねえぞ。」


「じじい、黙ってろ。」竹村真一は彼を冷たく睨みつけた。「知ってることがあるなら今言え。俺が死んでからのこのこ逃げ出すつもりか?」


村脳は答えず、ただ笑みを浮かべていた。その目の中で昏黄色の光がわずかに揺れた。「さあ、入るがいい。答えが欲しいなら、中にあるかもしれないぜ。」


真一は鼻を鳴らしながら、揺れかけた木の扉を押し開けた。


木の扉がギィィィ……と不気味な音を立てて開いた。 それはまるで怨念に満ちた哀れな嘆きのようでもあり、何か言い知れぬ秘密を訴えかける囁きのようでもあった。扉の奥に広がる光景を目にした瞬間、竹村真一は血刀を握る手にさらに力を込めた。


部屋の中は外見とは裏腹に異常に広かった。四方の壁には古びた油灯がずらりと掛けられており、灯芯の青い炎がわずかに揺れながら、部屋全体を灰青色の怪しい光で照らしていた。床には奇怪な形をした木彫りの像が散乱していた。人間の姿を模したものや、見るからに異形の生物の形をしたものまであり、それぞれから得体の知れない不気味な気配が漂っていた。


「ようこそ、『彼女』の居所へ。」村脳が静かに言った。その口元にはまたしても何か意味深な笑みが浮かんでいる。「坊主、今ならまだ引き返せるぞ。」


「黙れ!」竹村真一は低く怒鳴りつけた。鋭い目で部屋の隅々まで見回しながら、まったく気を抜かなかった。そして、視線は最奥にある装飾彫刻の施された木製の椅子にたどり着いた――椅子には、一人の女が座っていた。


その女は頭を垂れ、長い髪が滝のように顔を覆っていた。身にまとっているのは、破れた青色の長袍だった。手には血の色をした珠の数珠を握っており、ゆっくりとしたリズムで珠を一つずつ動かしていた。珠が動くたび、空間には低く重たい鈴の音が響き渡った。それはまるで深淵から届く呼び声のように、不気味なほど魂を揺さぶる音だった。


「誰だ?」竹村真一が低い声で問いかける。彼の声は緊張で張り詰めていた。血刀を握る指がわずかに白くなる。


女は顔を上げることなく、ただ珠を動かし続けた。鈴の音は鳴りやむことなく、一つ、また一つと続き、耳元でささやくような不気味さを増していった。


「お兄ちゃん、行こうよ……」ゆいが震える声でつぶやきながら、真一の袖を引っ張る。「この人……人間じゃないよ……」


「黙れ、後ろに下がっていろ!」竹村真一が低い声で叱責する。その声には、抑えきれない圧迫感がこもっていた。


...


その瞬間、女は手を止めた。珠の動きが止まると同時に、部屋全体が息を潜めたような静寂に包まれた。女はゆっくりと頭を持ち上げ、長い髪の隙間からその顔を露わにした――その顔は血の気がまったくなく、恐ろしいほど白い。完璧に整った美しい顔立ちだが、そこに生気は一切なく、氷のように冷たかった。


「来たわね。」女が低く、かすれた声で言った。その声は時空を越えたかのような重みを帯びており、この世のものとは思えない響きだった。


「俺を知っているのか?」竹村真一は眉をひそめ、警戒心をあらわにしながら女を見つめた。血刀をわずかに構え直し、いつでも攻撃できる体勢を取った。


女は答えず、ゆっくりと立ち上がった。彼女の動きはぎこちなく、まるで糸で操られた操り人形のようだった。その冷たい目がじっと竹村真一の血刀に向けられ、一瞬だけ笑みを浮かべた。


「持ってきたわね、『それ』を。」彼女がぽつりと呟いた。その視線がゆっくりと真一の背後に移り、怯えた表情のゆいに向けられた。「その子も……『鍵』なのよ。」


竹村真一は衝撃に息を飲み、すぐにゆいを背中でかばうようにして身構えた。「どういう意味だ?」


女は答えず、両手をゆっくりと広げた。次の瞬間、空気中に無数の囁き声が響き渡った。それは、複数の人間の声が重なり合って耳元で囁いているようだった。その声には、意味を理解することさえできない古代の呪文のような響きがあった。


同時に、部屋の床に散らばっていた木彫りの像が一斉に動き出した。それらは人形や怪物の形をした奇怪なもので、その四肢はぎこちなくも素早く動き、空洞の目から青い炎が燃え上がっていた。


「命の気を狙っているわよ。」村脳が低い声で笑いながら言った。「坊主、今度ばかりはどうやって生き延びるのか見ものだな。」


「黙れ!」竹村真一が怒声を上げると同時に、血刀が空を切った。刀身が唸りを上げながら、最初に飛びかかってきた木彫り像を一刀両断にした。


しかし、切断された像からは木屑は出ず、代わりに濃い黒煙が立ち上った。その煙が直ちに竹村真一の顔に向かって押し寄せた。


「気をつけろ!」村脳が声を上げたが、それは遅すぎた。黒煙が瞬時に真一の鼻腔に入り込み、彼の体が一瞬硬直した。目の前がぼやけ、無数の悲鳴と泣き声が耳元に響き渡る。


「お兄ちゃん!」ゆいの叫び声が意識を引き戻した。竹村真一は歯を食いしばり、なんとか体勢を立て直した。視界を振り払うように頭を振り、再びその冷たい目を女に向けた。


「お前は何者だ!」竹村真一が怒鳴りつける。


女は薄く笑った。その美しい顔立ちが、不気味な笑みでより一層異様さを増していた。「ただ……待っていただけよ。」


彼女の言葉が終わると同時に、部屋中の青い炎が一斉に燃え上がり、刺すような光を放った。その光の中で、女の姿はぼんやりと揺らぎ始め、やがて霧のように消えていった。


「運命の歯車は動き出した……」彼女の声だけが空間に残響した。「お前の選択が、すべてを決めるのよ。」


次の瞬間、青い炎は完全に消え去り、部屋は死んだような静寂に包まれた。周囲の木彫り像はすべて力を失い、ただの朽ちた木片に戻った。女の存在も完全に消え失せ、あたかも最初からそこにいなかったかのようだった。


竹村真一は血刀を握り締め、額には冷たい汗が浮かんでいた。歯を食いしばりながら村脳に向かって睨みつける。「じじい、てめえ、最初から知ってたな?」


村脳は煙管を口にくわえ、黄ばんだ歯を見せて笑った。「坊主、これは始まりにすぎねえ。『それ』を連れてきちまったからには、お前は逃げられねえよ。これから先が……面白くなる。」


竹村真一は言い返すことなく、ただその場を睨みつけた。そして、彼は背後のゆいに目を向け、その小さな体をしっかりと守る決意を込めてこう言った。「怖がるな。俺が必ず守ってやる。」


ゆいは小さく頷き、蒼白な顔にかすかな信頼の色を浮かべた。


竹村真一は深く息を吸い込み、血刀を再び握り直すと、一歩を踏み出した。

この先に待つのは、未知の深淵――そして、決して戻れぬ道だった。

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