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### 新たな旅立ち



天隙てんげきの崩壊によって、世界はまるで死んだように静まり返った。竹村真一たけむら・しんいちは地面に横たわり、全身が血まみれで傷だらけだった。その息は微かで、握りしめた血刀は力なく垂れ下がり、刀身は光を失って普通の古びた刀のように見える。


ゆいは真一のそばにひざまずき、彼の肩を揺らしながら涙をこぼして叫んだ。「お兄ちゃん……お願い、目を覚まして!約束したでしょ!絶対に死なないって……!!」


彼女の声は天隙の崩壊跡に虚しく響くだけで、返事はなかった。


村脳老人むらのうろうじんは少し離れた場所で煙管をくわえ、じっと竹村の倒れた身体を見つめていた。その顔にはどこか複雑な表情が浮かんでいる。やがて老人はため息をつき、竹村のそばにゆっくりと歩み寄った。そして倒れた彼を見下ろしながら、静かに呟いた。


「この若造……よくここまでやったもんだ。」


「何が『よくやった』よ!」ゆいは怒りに震え、涙で濡れた顔を上げて村脳老人を睨みつけた。「助けるって言ったじゃない!なのにどうして……お兄ちゃんがこんな目に遭わなきゃいけないの!」


村脳老人は煙管をくわえたまま何も言わなかったが、その視線は竹村の胸元に向いていた。そこには刻まれていたはずの逆命の呪印が完全に消え、その代わりに淡く血のような赤い印が浮かび上がっていた。印は微かに光り、天隙の力がまだ彼を完全には解放していないことを示している。


「確かに呪いは消えた。だが、代償はあまりにも大きい……」村脳老人は低く言った。「彼の魂の大半は天隙の力に蝕まれている。このままでは……もう長くは持たない。」


「そんなの嘘だ!」ゆいは声を張り上げた。「お兄ちゃんは死なない!絶対に!一番強いんだから……!」


村脳老人は煙を一口吐き、短く答えた。「……ひとつだけ方法がある。ただし、それにはお前の代償が必要だ。」


「代償?」ゆいは涙を拭いながら目を見開いた。「どんな代償でもいい!お兄ちゃんを助けられるなら、何だってする!」


村脳老人はしばらくゆいを見つめた後、小さくうなずいた。「お前の命気めいきだ。それを分け与えれば、あいつは何とか生き延びられるかもしれない。」


「命気……?」ゆいは一瞬ためらったが、すぐに強くうなずいた。「いいよ!全部でもいい!お兄ちゃんを助けて!」


村脳老人はそれ以上何も言わず、指先にかすかな光を宿らせた。「……自分で選んだことだ。後悔するなよ。」


ゆいは強くうなずいた。「後悔なんかしない!」


---



村脳老人の指がゆいの胸元に触れると、そこから柔らかな白い光が生まれた。その光は霧のように漂い、竹村真一の身体へと吸い込まれていく。


すると、竹村の血の気を失った顔にわずかに赤みが戻り、彼の胸がゆっくりと上下し始めた。指先がわずかに震え、生命の兆しが現れる。


「お兄ちゃん!」ゆいは目を輝かせ、彼の名前を何度も呼んだ。「目を覚まして!お願い……!」


竹村のまぶたがゆっくりと動き、彼の目が薄く開かれた。視線は最初ぼんやりとしていたが、すぐにゆいの顔を捉えた。彼はわずかに唇を動かし、かすれた声で呟いた。


「……まだ、ここに……いるのか?」


「お兄ちゃん!」ゆいは真一の胸に抱きつき、泣きながら彼の名前を繰り返した。「本当に……よかった……!」


竹村はかすかな笑みを浮かべ、震える手で彼女の頭を撫でた。「……泣くなよ……俺は……まだ死んじゃいねえ。」


村脳老人は二人の様子を冷ややかに見守りながら、静かに煙を吐いた。「喜ぶのはまだ早いぞ。確かに生き延びたが、魂の半分以上は天隙に侵されている。このままでは、長くは生きられん。」


竹村は肩を震わせて笑った。「長く生きられねえ?上等だ。一日でも多く生きりゃ、それで十分だろ。」


村脳老人はじっと彼を見つめた後、小さく笑った。「……やれやれ。本当に運命を蹴っ飛ばす男だな。」


---




竹村は岩に背を預けながら血刀を見下ろした。その刀は完全に力を失い、ただの古びた刀のようだった。


「……お前も、もう終わりか。」竹村はぼんやりと呟き、刀をそっと地面に突き立てた。


「お兄ちゃん、大丈夫……?」ゆいは不安そうに尋ねた。


竹村は苦笑を浮かべ、彼女に目を向けた。「俺が大丈夫じゃないことなんてあったか?」


しかし、彼の目がふと鋭くなり、ゆいを見つめて問いかけた。「なあ、ゆい。お前、さっき何か……やったんじゃねえか?」


ゆいは視線をそらし、小さな声で答えた。「……だって……お兄ちゃんを助けたかったから……。」


竹村は深いため息をつき、彼女の頭を軽く撫でた。「バカだな、お前は。俺が死んだら、お前はお前でしっかり生きりゃいいんだよ。」


「でも……お兄ちゃんがいなきゃ、私、一人ぼっちになっちゃう……。」ゆいは涙を拭きながらつぶやいた。


竹村は黙り込み、肩をすくめて短く笑った。「仕方ねえな……。俺が生きてるうちは、お前をほっとくわけにはいかねえか。」


竹村はふらつきながら立ち上がり、空を見上げた。空は澄み渡り、天隙の跡地には穏やかな風が吹いていた。


「行くぞ、ゆい。」竹村は静かに言った。「こんな場所に、もう用はねえ。」


「どこへ行くの?」ゆいは不安そうに聞いた。


竹村は振り返り、少しだけ笑みを浮かべた。「どこだっていいさ。面倒ごとを片付けに行くに決まってんだろ。」


ふたりは静かに歩き出した。新たな運命が、彼らの行く先で待ち受けているのを知らずに——。

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