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運命の選択


竹村真一たけむら・しんいちは「血刀」を高々と掲げ、その刃先はかすかに赤く輝いているものの、すでにその光はほとんど消えかかっていた。それでも彼は刀をしっかりと握り締め、目を逸らさずに裂け目の奥に浮かぶ黒い結晶を睨みつけていた。


その結晶はまるで天隙てんげきの心臓そのもののようだった。絡みつくように浮かぶ無数の歪んだ符文が、不気味な低音のうなり声を響かせ、まるで未知の言葉で語りかけているかのようだった。


ゆいは泣きながら真一の腕を掴み、必死に止めようとする。「お兄ちゃん、ダメだよ! 帰るって言ったじゃない……絶対に死なないって言ったじゃない……!」


真一は疲れ切った表情を浮かべながら、彼女を見下ろし、かすかに笑った。「バカなやつだな、お前は……。このままにしておいたら、お前だって生き残れないんだぞ。」


「でも……!」ゆいの涙は止まらず、声は震えていた。「他の方法があるはずだよ!絶対ある……!」


「泣くな。」真一は彼女の頭を軽く撫で、かすれた声で言った。「帰ったら、ちゃんと生きろ。俺みたいに、無茶なことを考えるな。」


ゆいがなおも止めようとする中、村脳老人むらのうろうじんはゆっくりと立ち上がり、口にくわえた煙管きせるを軽く噛みながら彼女を制した。「放っておけ。」彼の声は低く、冷たかった。「あの小僧はもう選びようがない。」


「黙れ!」ゆいは老人を怒りの目で睨みつけた。「あなたは最初から知ってたんでしょ!お兄ちゃんがこうなるってわかってたんでしょ!どうして助けないの!?こんなのひどいよ!」


村脳老人は煙管を吸いながら、静かに煙を吐き出した。その目は一瞬だけ揺れ、暗い光を帯びているように見えた。


「ゆい。」真一は彼女の言葉を遮るように声をかけた。「世の中には、自分で何とかするしかないことだってあるんだよ。」


真一は彼女の手をそっと外し、ゆっくりと裂け目の奥に歩き出した。


真一が一歩一歩進むごとに、黒い結晶の中から奇妙な囁き声が聞こえてきた。それは亡霊の叫び声のようでもあり、古代の言葉をつぶやくようでもあった。


「やめておけ……引き返せ……」その声は耳元で囁くように響いた。「ここを離れれば、お前は生き延びられる……誰よりも長く生きられるぞ……。」


真一は鼻で笑い飛ばした。「ふざけるな。ここまで来たのは、てめえをぶっ壊すためだ。」


黒い結晶は真一の言葉に反応したかのように震え、さらに低い声で囁いた。「やめろ……お前は死ぬ……お前の魂は飲み込まれ、完全な虚無へと消えるのだ……生まれ変わることさえ許されない。」


「虚無だろうがなんだろうが知ったことか。」真一は血刀を握り締め、険しい表情を浮かべた。「どうせろくな人生じゃなかった。次なんてなくてもいい。」


黒い結晶はその言葉に一瞬黙り込んだが、再び誘惑の声を上げた。「本当にそれでいいのか……?お前には選択肢がある。天隙の一部となり、その力を受け入れろ。そうすれば、命劫はお前の武器となり、永遠の力を手に入れられる。お前は天道を超え、運命を支配する存在になれるのだ……。」


「天隙の一部……運命を支配する……。」真一は一瞬、目を細めた。彼の手がわずかに緩んだ。


村脳老人は遠くから冷たい声を放った。「聞くな!天隙の力はお前の魂を貪り尽くす。自分という存在そのものを失うぞ!」


黒い結晶は嘲笑の声を響かせた。「行き場のない怨霊の分際で……村脳、お前も天隙に作られた産物ではないか。そんなお前が、この小僧に何を語るというのか?」


村脳老人の表情が一瞬険しくなり、口から出る煙がかすかに揺らめいた。


「村脳、お前……。」真一は老人を睨みつけ、その目が鋭さを帯びた。「お前、最初から何か隠してたな?」


「ふっ……。」村脳老人はかすかに笑い、肩をすくめた。「天隙の力に抗うか、それを受け入れるか……選ぶのはお前だ。だが俺の忠告を聞け。この道を選んだら、後悔することになる。」


真一は短く笑い飛ばした。「クソみてえな場所に引きずり込んどいて、何を今さら選べだと?」


再び血刀を振り上げ、赤い光がほのかに輝いた。その刀身には不屈の意志が宿っているかのようだった。


「俺は選ぶ必要なんかねえ——!」


「轟——!」


真一の咆哮とともに、血刀が黒い結晶に向かって振り下ろされた。


刀刃が結晶に触れた瞬間、赤い光と結晶の猩紅の光が激しくぶつかり合い、裂け目全体を眩い光が包み込んだ。


「バキバキバキ——」


黒い結晶の表面に無数の亀裂が走り、絡みついていた符文が次々と崩れ落ちた。その瞬間、結晶から発せられていた囁き声が断末魔の叫びに変わった。天隙そのものが悲鳴を上げているかのようだった。


「真一お兄ちゃん——!」ゆいは涙を流しながら叫んだが、無形の力に阻まれて近づけなかった。


真一の身体は赤い光と猩紅の光に包まれ、彼の腕に刻まれていた命劫の烙印が燃え上がりながら空気中に溶け消えていった。


「命劫……。」真一は息も絶え絶えに呟いた。「やっと……終わったか……。」


黒い結晶はついに粉々に砕け散り、裂け目から溢れていた黒い霧はすべて裂け目の中へと吸い込まれていった。そして、裂け目はゆっくりと閉じ始めた。光は完全に消え去り、周囲には静寂だけが残った。


真一はその場に膝をつき、血刀を地面に突き立てたまま倒れ込んだ。


「お兄ちゃん!」ゆいは駆け寄り、真一の身体を抱き起こしながら泣きじゃくった。「死なないで……お願い、死なないで!」


真一は微かに目を開け、疲れ切った笑みを浮かべながらつぶやいた。「まだ……死んじゃいねえさ……。」


そして彼の身体は完全に力を失い、その場に崩れ落ちた——。

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